高値圏「仮想通貨」始めたい人が絶対知るべき盲点 国際金融に精通する作家・黒木亮が教える本質

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2つ目は、カモにされる可能性があるということだ筆者はもともと金融分野(銀行、証券など)の本を書き、その後、エネルギーやコモディティー(商品取引)分野の本を書くようになった。金融からコモディティーの世界の取材に移ったときは、相場操縦が横行しているのに驚かされた(典型例が1996年に発覚した住友商事の銅取引による2600億円損失事件)。

しかし、仮想通貨の世界はもっとすごく、ほとんど規制されておらず、インサイダー、相場操縦、詐欺など、何でもありである。さらにここに、インターネットのダークウェブ(闇サイト)を介して、北朝鮮やロシアのハッカー、犯罪者やテロリスト集団などが関わっている。

相場操縦の代表的なものに「ポンプ・アンド・ダンプ」というのがある。1000人以上のグループが示し合わせた時刻に一斉に買い注文を入れ、ポンプのように市場に圧力を加え、価格を吊り上げたところで、手持ちの仮想通貨を一気に叩き売る(ダンプ)。

買いを入れる日時は、SNSの会員制掲示板を通じてメンバーに通知される。吊り上げグループは、SNSを使って、一般の投資家が買いたくなるようなうそのニュースも流布し、価格暴騰のお膳立てをする。証券取引法では違法だが、仮想通貨の世界では禁止されていない。

詐欺の温床ともいわれるICO

一般投資家をカモにし、詐欺の温床といわれるもう一つの手法がICO(initial coin offering)だ。

企業の新規株式公開(上場)であるIPO(initial public offering)に似ているが、投資家は、提案された事業への投資として仮想通貨を払い込み、株式の代わりに「トークン」(デジタルの権利証票)を受け取る。トークンは仮想通貨として使えるもの、発行者から商品、サービス、優待、収益分配を受けられるものなど、設計次第でバリエーションがいくつもある。

IPOの場合、金融商品取引法の規定や上場規則に従うことが必要で、主幹事証券会社による引受審査や監査法人による会計監査を受けたうえで上場を申請し、約3カ月間をかけて日本取引所グループ(東証・大証)による上場会社としての適格性の審査を受けなくてはならない。その後、有価証券届出書と株式発行・売出目論見書を作成・提出し、公募・売出し、新規上場となる。

これに対してICOは、「トークン」が有価証券に該当しない限り、金融商品取引法の規定や上場規則の適用は受けない。情報開示ルールは存在せず、目論見書に相当する「ホワイトペーパー」が作成されることが多いが、必ず作成されるというわけでもなく、開示内容も発行者が好き勝手にできる。そのため粗製濫造で、資金を調達した企業が提示した事業計画の8割が詐欺的なものだったとする調査もある。

日本でも、去る7月、全国の2万人から70億円を集めた「OZ(オズ)プロジェクト」が愛知県で摘発されるなど、仮想通貨がらみの詐欺事件が急増し、消費者庁などが注意を呼びかけている。ICOと聞けば、かつての豊田商事事件(ありもしない金地金を売りつけていた巨額詐欺事件)みたいなものと疑ってみるのが無難だろう。

最近は、審査を念入りにしたIEOという新しい資金調達方法も出てきてはいるが、まだ今年7月に第一号案件が実施されたばかりで、どの程度信頼できるものかはわからない。

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