――小山先生も、原作の前の話にしようと?
以前から小山先生には、スピンオフよりは、原作の前の話をしたほうがいい、ということは伝えていました。ただし、原作の前の話にするということは、(兄の)六太は宇宙飛行士になっていないということですから、そこで『宇宙兄弟』という物語を作るということはかなり悩みました。
今回、六太は自動車会社に勤務していないといけない。今までとは違う世界を描かなければいけないというハードルがありました。でもそこが小山先生のすごいところなのですが、そんな中でも、六太というキャラクターをうまく理解して新しい物語を作っている。もちろん原作者なので、理解して作っているのは当たり前なのですが。
梅茶菓支店のエピソード(六太が片田舎の支店に異動させられながらも、そこで腐ることなく周りの人々を巻き込みながら奮闘する)なんて、ほかの人では作れません。ストーリーを見た時点で「さすがです!」と思いました。ああいったエピソードを通じて『宇宙兄弟』の六太らしさが表現できるというのは、小山先生だからこそできる。結局、小山先生には120%ガッツリ脚本にかかわっていただきました。「宇宙兄弟」ファンなら絶対にハズレはないと思います。
――『宇宙兄弟』はJAXAとの協力体制も密だったと聞いています。
そうですね。JAXAには何度も取材に行っていますから、けっこうリアルに作られていると思います。これは、皆さんが自然に思っていることなので、気にしていないと思いますが、劇中に出てくるNASAロゴはすべてNASAに許諾を取っています。NASAはそういったことに厳しいので、これはものすごく大変なことでした。まずNASAのロゴがこういうふうに出ます、と伝えないといけない。そこで絵と英訳したシナリオを送って、そしてNASAに了解してもらって初めてロゴを使うことができるのです。それはテレビシリーズ全99話、そして今回の映画版もすべてそれをやっています。ですから(制作会社の)A-1 Picturesのスタッフも、もちろんNASAの広報スタッフも、ものすごく大変な苦労だったと思います。しかし、海外で放送ができるような作品にするためには、そういったところで後々にもめたくなかったので、事前に申請を行うことにしました。
アニメをひとくくりにしてはいけない
――『宇宙兄弟』のアニメシリーズは、永井さんが立ち上げた企画なのでしょうか?
僕ひとりで手を挙げました。ゴールデンタイムでやれる企画を出せと言われたので、これはもう『宇宙兄弟』しかないと思ったのです。いつからどの枠で始まるのかも決まっていませんでしたが、「やらせてください」と、まずは社内を説得して回りました。
――永井さんは『金田一少年の事件簿』『ヤッターマン』など、いわゆるゴールデンタイムで放送されるような、王道のアニメを手掛けることが多いです。近年、深夜アニメが隆盛の中、王道アニメへの思い入れはありますか?
僕は、アニメをひとくくりにしてはいけないと思っているのです。皆さん、アニメというくくりで語ることが多いのですが、単に表現方法がアニメであるというだけで、深夜アニメとは別ものだと考えないといけないと思います。
深夜アニメは、ある一定の人に見てもらえればいい、というスタンスで作られています。しかし、僕がやっているような作品は、万人に見てもらうという目的で作られています。それはおそらくゴールデンタイムで放送されているドラマや、朝の連ドラなどに近いものではないかと思っています。もちろん深夜アニメはコアなファンには人気ですが、認知度でいえば、おそらく『宇宙兄弟』にはかなわないと思います。以前、リサーチをしてみたところ、『ヤッターマン』の認知度は98%くらい、『宇宙兄弟』でも76%くらいの認知度でした。
よく「ターゲットは?」と聞かれますが、『ヤッターマン』にしても『宇宙兄弟』にしても万人向け、子どもから大人までと答えています。そういった多くの人々に、しっかりと見てもらうことが大事になってきます。
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