製作者が明かす『宇宙兄弟』の舞台裏 「ゴールデンの放映ならこの作品しかないと思った」

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永井幸治(ながい こうじ)
1969年生まれ。1993年に読売テレビに入社。1999年まで音楽番組、バラエティ、情報番組のディレクターを担当。その後、営業職を経て、編成局事業アニメーション部に異動。その後はプロデューサーとして、ゴールデンタイム、全日帯の全国ネットアニメを多数手掛ける。担当番組は『結界師』『ヤッターマン』『夢色パティシエール』『べるぜバブ』『宇宙兄弟』など。
(撮影:尾形文繁)

――小山先生も、原作の前の話にしようと?

以前から小山先生には、スピンオフよりは、原作の前の話をしたほうがいい、ということは伝えていました。ただし、原作の前の話にするということは、(兄の)六太は宇宙飛行士になっていないということですから、そこで『宇宙兄弟』という物語を作るということはかなり悩みました。

今回、六太は自動車会社に勤務していないといけない。今までとは違う世界を描かなければいけないというハードルがありました。でもそこが小山先生のすごいところなのですが、そんな中でも、六太というキャラクターをうまく理解して新しい物語を作っている。もちろん原作者なので、理解して作っているのは当たり前なのですが。

梅茶菓支店のエピソード(六太が片田舎の支店に異動させられながらも、そこで腐ることなく周りの人々を巻き込みながら奮闘する)なんて、ほかの人では作れません。ストーリーを見た時点で「さすがです!」と思いました。ああいったエピソードを通じて『宇宙兄弟』の六太らしさが表現できるというのは、小山先生だからこそできる。結局、小山先生には120%ガッツリ脚本にかかわっていただきました。「宇宙兄弟」ファンなら絶対にハズレはないと思います。

――『宇宙兄弟』はJAXAとの協力体制も密だったと聞いています。

そうですね。JAXAには何度も取材に行っていますから、けっこうリアルに作られていると思います。これは、皆さんが自然に思っていることなので、気にしていないと思いますが、劇中に出てくるNASAロゴはすべてNASAに許諾を取っています。NASAはそういったことに厳しいので、これはものすごく大変なことでした。まずNASAのロゴがこういうふうに出ます、と伝えないといけない。そこで絵と英訳したシナリオを送って、そしてNASAに了解してもらって初めてロゴを使うことができるのです。それはテレビシリーズ全99話、そして今回の映画版もすべてそれをやっています。ですから(制作会社の)A-1 Picturesのスタッフも、もちろんNASAの広報スタッフも、ものすごく大変な苦労だったと思います。しかし、海外で放送ができるような作品にするためには、そういったところで後々にもめたくなかったので、事前に申請を行うことにしました。

アニメをひとくくりにしてはいけない

©宇宙兄弟CES2014

――『宇宙兄弟』のアニメシリーズは、永井さんが立ち上げた企画なのでしょうか?

僕ひとりで手を挙げました。ゴールデンタイムでやれる企画を出せと言われたので、これはもう『宇宙兄弟』しかないと思ったのです。いつからどの枠で始まるのかも決まっていませんでしたが、「やらせてください」と、まずは社内を説得して回りました。

――永井さんは『金田一少年の事件簿』『ヤッターマン』など、いわゆるゴールデンタイムで放送されるような、王道のアニメを手掛けることが多いです。近年、深夜アニメが隆盛の中、王道アニメへの思い入れはありますか?

僕は、アニメをひとくくりにしてはいけないと思っているのです。皆さん、アニメというくくりで語ることが多いのですが、単に表現方法がアニメであるというだけで、深夜アニメとは別ものだと考えないといけないと思います。

深夜アニメは、ある一定の人に見てもらえればいい、というスタンスで作られています。しかし、僕がやっているような作品は、万人に見てもらうという目的で作られています。それはおそらくゴールデンタイムで放送されているドラマや、朝の連ドラなどに近いものではないかと思っています。もちろん深夜アニメはコアなファンには人気ですが、認知度でいえば、おそらく『宇宙兄弟』にはかなわないと思います。以前、リサーチをしてみたところ、『ヤッターマン』の認知度は98%くらい、『宇宙兄弟』でも76%くらいの認知度でした。

よく「ターゲットは?」と聞かれますが、『ヤッターマン』にしても『宇宙兄弟』にしても万人向け、子どもから大人までと答えています。そういった多くの人々に、しっかりと見てもらうことが大事になってきます。

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