自宅療養者のなかには、血中の酸素飽和度(SpO2)が90を切っている感染者がいる。93を下回ると中等症Ⅱで、重症の一歩手前だ。相当に苦しいはず。だが、多くの場合は入院先が見つからない。仕方ないので在宅医が酸素濃縮器を持ち込んで、酸素投与に踏み切る。都が用意した500個の濃縮器は瞬く間になくなった。
酸素や投薬を繰り返せば、1人の医師が回れるのは日に5~6人が限度だ。2万5000人もいる感染者のうち、無症状の人を除いたとしても医師の診察を受けられる感染者は、ごく一部だ。医療の手が回っていない。
尾﨑会長は、ある在宅医の声が耳から離れない。
「重症化していく感染者を入院させられずにいることは、本当につらい。もう限界です」
尾﨑会長は突き動かされた。
「こうなったら"野戦病院"しかない」
自宅療養やホテルでの宿泊療養では、診療するにも個別の部屋を訪問しなければならないので、効率が悪い。体育館などの広いスペースにベッドを並べる"野戦病院"なら、個々の病状をひと目で見渡せるし、医師も看護師も少なくて済む。酸素が必要な感染者のためには、酸素を送る配管があればベストだ。だが、当面は濃縮器でもやむをえない。少なくとも感染者の不安は解消できる。
尾﨑会長が考える臨時施設は、酸素を投与すると同時に、ステロイド薬の「デキサメタゾン」などを使った治療ができる施設。それに発症間もない軽症者に有効な抗体カクテル療法を施せる2種類が必要だ。もちろん同じ建物で役割を分けてもいい。抗体カクテル療法は、基礎疾患などの高リスク感染者の重症化を70%軽減できるという。重症化を減らせれば、医療の逼迫も防げる。ただ、副作用にも注意を払う必要があるため、数時間、あるいは一晩は泊まることになる。
日本医師会とのタッグも都は及び腰
日本医師会の中川俊男会長にも相談した。厚労省や官邸に提案するためだ。説明を聞いた中川会長も、すぐに呼応してくれた。経団連に保養施設などの提供を要請した。
だが、肝心の東京都が及び腰だ。
8月18日、尾﨑会長は都の福祉保健部局の幹部と、オンラインで会合を持った。渋谷区に酸素ステーション130床を置くことや、パラリンピックのデポ施設を大会後に酸素ステーションに転用する。抗体カクテル療法についても、都立・公社病院内で実施する予定だという。
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