尾﨑会長は不満だった。酸素ステーションでは、受け入れ病院が見つからない救急搬送患者を主に収容するという。だが、自宅で救急車も呼ばずに、重い症状にあえいでいる感染者は数知れない。在宅医が要入院と判断した患者を収容して、投薬を含めて治療できる施設こそ求められている。それにしても、130床では心もとない。
それに病床不足が深刻ななか、軽症者に限定される抗体カクテル療法を、なぜ都立・公社病院が担うのか。むしろ中等症以上の感染者の治療に全力を挙げるべきではないのか。
都が"野戦病院"を渋る最大の理由は、人材の確保だ。臨時施設を作っても、それを診る医師や看護師を確保するメドが立たないという。それより、病院での病床確保を優先したいらしい。
都のホームページを見ると、入院している感染者数は4300人を超えているが、都の確保病床は約5900床ある。さらに将来的には6400床を見込んでいるという。
まだ余裕があるはずなのに、入院先が見つからないケースが相次ぐとはどういうことだろう。受け入れを表明しながら、実行していない病院が存在するか、そもそも確保病床そのものが確約されていなかったということになる。
結局、都は "野戦病院"の開設については、最後まで首を縦に振らない。
尾﨑会長がいら立っていたのは、この日の夕方の電話でのことだ。
「被災現場を見ないで対策を立てているようなもの。130床の酸素ステーションとか、ちまちまやっている場合ではない。病院への協力要請で80床を確保したいって都は言うんだけど、これだけの自宅療養がいるのに、80床ではどうにもならないでしょ。集める場所さえ確保してくれれば、人材はぼくらが集めるって言っているのに」
小池都知事からの電話でキレる
8月23日、小池百合子都知事から、尾﨑会長の携帯電話に連絡があった。自分の診療所でワクチン接種をしていた正午すぎだった。
「これから田村(厚生労働)大臣と医療機関への協力要請を話し合いに行くが、都医も協力してちょうだい」
尾﨑会長は、少々荒っぽい言葉で言い返した。
「協力してくれと言うばかりで、こちらの要望も聞いてほしい。もはや野戦病院のような施設を作らないと限界ですよ。建物さえ用意してくれれば、人材はこちらで何とかするから」
そう言って、具体的な候補地として、調布市の「味の素スタジアム」と、それに隣接するパラリンピック会場ともなっている「武蔵野の森総合スポーツプラザ」を挙げた。
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