東京に「野戦病院」が絶対必要なのに進まない事情 及び腰な小池知事に都医師会長がぶつけた本音

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そもそも"野戦病院"を作っても、開業医にとっては利益より負担感のほうが大きい。昨年、PCR検査が目詰まりを起こしたときも、都医師会の主導で区市町村ごとにPCRセンターを設置した。全国に先駆けて、ホテルでの宿泊療養のスキームを作ったのも都医師会だった。感染者を集中させる専門病院の構想も、早い段階で唱えてきた。

一方では、医師会に対する批判もある。開業医のなかには、依然として「発熱外来お断り」の張り紙を掲げているところもあるし、以前はPCRを実施してきた開業医も、最近になってPCRの看板を下ろすところが少なくない。PCRで陽性となれば、以前であれば保健所が健康観察を担っていた。だが、感染者の急増で保健所の手が回らない。自ずと開業医が感染者のフォローを引き受けざるをえなくなる。開業医にとっては、負担が大きすぎるからだという。

だが、これを尾﨑会長にぶつけると、きっぱり言い切った。

「医師として当たり前の責任」

「PCR陽性者の判定をした感染者のフォローするのは、医師として当たり前の責任だろう。それができないのはおかしな話だよ」

これまで長年、医師会の取材を続けてきたが、開業医の行動に苦言を呈する医師会幹部はあまりお目にかかれない。尾﨑会長の本気度に触れた瞬間だ。

9月上旬、東京の新規感染数は、下火の兆候を示している。だが尾﨑会長は、「いや、人流などを勘案すると、まだまだ増える可能性がある」と警戒する。

そんななか、福井県ではすでに体育館に臨時医療施設の計画を進めている。感染者の拡大が続く大阪では、1000床規模の臨時医療施設の構想が具体化しそうだ。だが、東京では"野戦病院"の提案が実るかどうかの先行きは不透明だ。

尾﨑会長にとって嬉しかったことが1つあるという。"野戦病院"の提案を知った在宅医からのメールだ。

「涙が出るほど、うれしい」と。

その向こうには、いまでも自宅療養を余儀なくされている感染者が、不安におびえている。

辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

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たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

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