ポストコロナ、日本の成長に絶対外せない命題 海外投資立国と国内経済のバランス戦略へ

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急拡大しているM&Aの対外直接投資も大きな焦点である。M&Aの直接投資総額はグリーンフィールド投資の3~5倍も大きく、単体のM&A自体も巨額で、高い情報収集能力とリスク把握能力、強いリーダーシップと決断力が不可欠である。

対外証券投資分野の課題は、資産運用能力の抜本的向上に尽きる。欧米の金融機関と比較して資産運用能力の問題は明らかであろう。アメリカの高い資産運用能力は、究極的にその情報収集と分析能力の圧倒的高さが基盤となっていることに疑いはない。運用能力には新規融資や企業創造支援、カントリーリスクの分析など多様な分野が含まれる。

18~20世紀初めにかけて金融面から世界をリードした欧米のマーチャントバンクや投資銀行は、人的ネットワークも含めた高い情報力で果敢にリスクに挑戦し、優れた運用能力を発揮して世界経済の発展と国内では海外投資立国の基盤を確立することに成功した。もちろん、時にはリスクへの対応に失敗もあったが、したたかに復活し、全体として高い運用能力を維持したのである。

人的資本の蓄積へ向けた教育の再検討も必須

海外投資は国民の貯蓄や企業が蓄積した収益を海外で運用するものであるから、より高い収益とリスク回避への適切な対応が肝要であることは指摘するまでもない。海外投資立国への課題としては、まず比較的収益力の高い直接投資やM&Aに幅広い金融機関を関与させる制度の強化・構築に加え、ソブリン投資や株式なども含めた公的な海外資産運用ファンドの設立なども早急に検討が求められるだろう。

長期的な課題には人的資本の蓄積へ向けた教育の再検討も必須である。リベラルアーツ、語学、数学、リーダーシッププログラムなどをコアとする抜本的な教育システムの構築が必要で、さらに金融実務と政策に関連した経験も不可欠だ。超長期と幅広い視野からの圧倒的なインテリジェンスを伴う情報力の充分な蓄積がなければ、長期的な海外投資立国と国内経済の緩やかな成長を両立させる戦略も有効に機能することは期待できない。

(櫻井眞/元日本銀行審議委員)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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