一方で、日本経済は緩やかなプラス成長を持続することができても、人口減少など構造的に潜在成長力の向上に限界があることは指摘するまでもない。日本のポストコロナにおける重要な課題の1つは、海外投資を充分活用しつつ日本企業の構造改革やイノベーションの進展を戦略的かつ着実に進めることであろう。
リーマンショック後の重要な政策上の経験は、多くの先進国が大胆な金融緩和政策と財政拡大により歴史的な大規模危機に際してその対応能力を発揮した点にある。特に、コロナ感染への危機対応では、リーマンショックの経験が生かされたことは明らかで、コロナからの回復はリーマンショック時よりも早い回復となっている。
しかし、日本の直面する現実と今後の課題は多い。日本が順調に回復軌道を進んでも、緩やかな成長という潜在成長力が大きく変わる可能性は低く、海外投資の収益力を高める中で着実に構造改革を実施し、緩やかながらも持続的な成長を追求することが現実的かつ着実な政策の方向であろう。
日本の海外投資収益力向上に何が必要か
海外投資の収益力向上は、企業収益の増大でもあるから国内投資拡大にも寄与するだろう。2016~2019年前半の日本経済は、政策的支えを背景に海外収益も含めた好調な企業収益の改善と緩やかな成長が持続できたことで、雇用拡大と人手不足の深刻化が顕在化し、国内設備投資が拡大する好循環が実現したのが実態である。
ポストコロナの日本で、海外投資立国と国内経済の緩やかな成長を両立するためには、一段の海外投資収益力向上が決定的な重要性を持つ。収益力強化のためには、対外直接投資に関連した地政学的リスクも含めた情報収集能力向上や迅速な対応力(決断力)が欠かせない。
米中対立によるグローバルサプライチェーン(GSC)再編が始まるのはすでに時間の問題で、当面は複数のGSCへの模索などが現実的な対応となろう。日本企業自身の構造改革も重要な焦点で、大企業でガバナンスとコンプライアンスの問題が表面化するケースが目立つ。さらに経営者の在任期間が欧米に比べ短く、多数の社外役員を抱える中で、イノベーションや企業成長のリーダーシップは確保されているのかなど率直な懸念はぬぐえない。
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