塩野:1980年代のMTVも実験的でしたからね。ライブっぽいのもあれば、短編映画みたいなストーリー仕立てのものもあったし、マドンナを手掛けたデヴィッド・フィンチャーや、ビョークやビースティ・ボーイズのスパイク・ジョーンズのように、そこからたくさん映像アーティストも生まれた。今はニコ動とかYouTubeとか、インターネットで手軽に動画を投稿できるから、一般人でも自分の歌や踊りを投稿しているし、視聴者側も人によっていろんなメディアを見るようになったじゃないですか。音楽番組としては、逆にこういう動きを取り込みたいとかあるんですか?
須藤:YouTubeが、ニコ動が、ってみなさん言うんだけど、そことの比較というよりは、うちはやっぱり音楽の入り口でもあるので、最大公約数のお客さんが求めるものを、つねに届けることを考えていますね。これは個人的にですが、東京オリンピックが開かれる6年後には、「日本の音楽」じゃなくて、「アジアの音楽」としていろいろなアジアの秀でたアーティストを紹介できるようにしたい。たとえば日韓ワールドカップのときは、日本の音楽シーンも盛り上がっていましたよね。日本からはCHEMISTRYとsowelu、韓国からはBrown eyesとLena Parkが出てきて、計4組のアーティストがコラボレーションした。そんな「普通ならありえない組み合わせ」がどんどん生まれたら面白いし、日本とアジアのエンターテインメントが混じり合うことを目指したいです。
塩野:いいですね。オリンピックの開会式で、ありえないコラボを見てみたい。
須藤:中学生の頃、アメリカで見たスーパーボールのハーフタイムショーはいまだに覚えてますよ。試合の前後半合間に、スーパースターが出てきて歌うんだけど、本当に日本人なのにドキドキしたもの。いまだにあの記憶は忘れられない。東京オリンピックという国際的なステージでは、やっぱり「日本のアーティスト」宣伝うんぬんではなくて、「アジアの日本アーティスト×」っていうふうでありたい。そのためには日本がいち早くアジアのアーティストを巻き込むのが、いちばんいいんじゃないかなと個人的には思ってますね。
努力をしている人がたくさんいる業界
塩野:そこで何か大きな化学反応が生まれると面白いですね。では最後に、音楽業界を志望する人にメッセージをいただければ。
須藤:この世界って、世界のエリート同様に独特のルールの上に、すごく努力している人たちが身近にいる業界なんですよね。特にキャリアが長い人には、尊敬できる人がいっぱいいる。
塩野:生き残るのは大変ですもんね。
須藤:その努力たるや、ちょっと想像できないレベルなんですよ。僕たちは裏方だけど、表に立っている人たちとじかに触れ合うと、すごく刺激をもらえる。スポットライトを浴びる人たちばかりでなく、裏方であろうとそれは同じことで、自分を磨いているし、日々の成果にも徹底的にこだわって、嗅覚も鋭いし、時間があったらジャンルに関係なくいろいろな人と会っているし、仕事の流儀がしっかりしているわけですよ。本人がそれを努力だと思っているかどうかは置いておいて、そういう自己鍛錬を怠らないプロフェッショナルたちと仕事ができるのがいいところですね。
塩野:なんとなくわかりますね。プロフェッショナルすぎる映像を見ているときなんか、その人が陰で流した汗を思うと、ときどき涙が出ることがありますよ。
須藤:それはお互い年とったんだよ(笑)。涙腺は弱くなっていく一方です。
塩野:そうか!(笑)。
須藤:でも本当に、それを垣間見た瞬間はゾクッとする。僕はもうやみつきですけどね。この仕事。
塩野:なるほど。熱量のあるいいメッセージをいただきました。ありがとうございました。
(構成:長山清子、撮影:風間仁一郎)
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