空軍パイロット「アフガン超緊迫脱出」の一部始終 「タリバンに見つかったら殺される」変装して実行

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アフガニスタンの治安部隊は30万人以上と、タリバン兵の数を優に上回っていたとされるなか、アフガン軍がタリバンに抵抗せずに降伏したとの批判の声も上がる。一方で、タリバン側がパイロットなど軍の重要人物や市民社会の指導者などを標的に暗殺計画を実行してきたことへの心理的ダメージが次第に募り、全国に分散したアフガン軍に対して水や食料、弾薬などの補給任務の負担も増す中で空軍が弱体化していき、次第に窮地に追い込まれていった実情が垣間見える。

今年に入ってロイター通信の取材に対し、タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は、アフガン空軍のパイロット殺害を認めたうえで「国民に対する砲撃を行っているため標的として排除する」ためのプログラムを開始したと述べている。

アメリカとNATO(北大西洋条約機構)が訓練したパイロット部隊を壊滅に導き、補給任務などに混乱をきたしてアフガン軍の戦意を喪失させるべく、タリバン側は綿密な作戦を総力戦で行ってきたと言える。

待避支援活動が難航する恐れ

8月18日、アメリカのシャーマン国務副長官は、カブール空港に向かうアフガニスタン人に対してタリバン側が移動を妨害しているとの情報が入っていると非難、退避支援活動が難航する恐れが指摘されている。メディアを通じて対外的には恩赦や融和をアピールする一方で、地元住民らによると、すでに略奪行為なども始まり、ラジオ局などからも音楽は消え、女性の写真が掲げられたポスターなどが黒塗りされるなどの事案も報告されている。

サイードさんの妻は、歯科医になることを目指して7年間大学に通い続け、今年が最後の年だったという。小さなクリニックを持つ夢ももう諦めるしかないと落胆する。

「タリバンがいくら甘いことを言っても、信じるアフガニスタン人などいないでしょう。彼らの根本的な思想は変わるはずがないのです。もう妻が大学に通えることもないでしょう、女性が学ぶことをタリバンが許すはずがありません。妻の夢もこの国ではもう叶わないのです。自らの命に及ぶ危険と家族の幸せを考えたら、この国に残ることは到底できません。

わずかながらある貯金をおろしてから出国できればと思っていましたが、銀行ももう閉鎖されたのでお金を下ろすことはできません。でも、そんなことはもういいのです。とにかく今は命と家族が大切です。どこへでも、たどり着いた国で必死に働いて稼いで人生を立て直します」

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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