「タリバン」こんなにも早く権力掌握できた事情 女性を抑圧した20年前の「悪夢」が再来か

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アフガニスタンの首都、カブールを掌握したタリバン(写真:Jim Huylebroek/The New York Times)

アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンの攻勢で主要都市が相次いで陥落し、首都カブールに向けて進軍、ガニ大統領が隣国タジキスタンに脱出して民主政権が事実上崩壊した。タリバンは、アメリカ軍の8月末までの完全撤退で生じた「力の空白」を一気に埋め、20年にわたって民主化の促進や軍の育成に取り組んだアメリカのアフガン政策は失敗に終わった。

カブールの状況は、1975年のベトナム戦争でソ連が支援する北ベトナムが南ベトナムを制圧、混乱したアメリカ人ら外国人の脱出劇に象徴されるサイゴン陥落を彷彿とさせている。女性の人権侵害や石打ち刑、音楽の禁止など厳格なイスラム法による統治という2001年のアメリカ軍侵攻まで続いたタリバン政権の悪夢の再来は確実な情勢だ。

また、タリバンの動きに触発されてパキスタンをはじめとした周辺国のイスラム勢力が勢いづくとの見方があるほか、国際テロ組織アルカイダなど欧米を標的とした過激派の「テロの温床」となる可能性もある。

タリバンが快進撃を演じた理由は

アフガンからのアメリカ軍撤退は、トランプ前大統領がタリバンとの対話による合意で決断しており、バイデン大統領も「アフガンに軍事的な解決策はない」として前政権の路線を踏襲。タリバンの攻勢にもかかわらず、全面撤退を進めてきた。

背景には、アメリカ兵の犠牲拡大による厭戦気分の高揚や戦費の拡大、覇権主義を強める中国、新型コロナウイルスへの対応など優先すべき課題に資源を投入しなければならないという事情がある。

タリバンが快進撃を演じたのは、アフガン政府の統治能力や国軍の能力が欧米の支援によっても向上しなかったことが要因だ。腐敗や縁故主義にまみれた政権側が無力ぶりを露呈する中、タリバンは主要都市を激しい戦闘もなしに掌握した。部族や軍閥による支配が色濃いアフガンでは、アメリカ軍という後ろ盾を失ったガニ政権を支えてきた部族や軍閥が、日和見的にタリバンに従属し始めた形だ。

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