「タリバン」こんなにも早く権力掌握できた事情 女性を抑圧した20年前の「悪夢」が再来か

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イスラム教は、法源である聖典コーランや預言者ムハンマドの言行録ハディースをどう解釈して社会に適用するかで、原理主義的な立場から世俗派まで幅がある。アフガン農村部の保守的な慣習も入り混じったタリバンのイスラム解釈は、現代の女性にとっては苛烈であり、人権軽視として国際社会から批判を浴びてきた。

イスラムの解釈は、時代とともに移り変わり、イスラム宗教界や市民社会での議論を経て現代的な解釈が取り入れられていく場合が多い。2001年のタリバン政権崩壊以降、ゲリラ闘争に明け暮れてきたタリバンがこうした議論を経て穏健化したとは考えにくく、女性に対する抑圧などの恐怖支配が再来するのは間違いないだろう。

タリバン復権にはさまざまな見方

見落としてはならないのは、欧米中心の見方ではアフガンの実態を見誤るという点だ。アフガンで長年活動してきた国際機関の職員は「政府側につく軍閥や部族が勝手に市民から税金と称して金銭を巻き上げたり、賄賂などの腐敗も蔓延したりしており、タリバンを一定程度支持する土壌が存在する」と指摘する。

アメリカ軍や政府軍の誤爆や誤射で多数のアフガン市民が犠牲になってきた。復讐心からタリバンに加わったり、支持したりする市民も少なくない。イスラム的な平等意識や公正さも、腐敗した政権にはないものだろう。

それでも、宗教的な価値観は人それぞれであり、タリバンのイスラム思想を押し付けられるアフガン国民にとってタリバンの復権は悪夢にほかならない。男性が髭を伸ばすことを強制されたり、音楽を流した派手な結婚式が禁止されたりして、アフガンは暗黒の時代に逆戻りすることになりそうだ。

アメリカ軍に協力してきた軍関係者や通訳、政府関係者のリストをタリバンは手にしているといい、処刑対象になりかねない。すでにタリバンは政権幹部や軍関係者、ジャーナリストなどを暗殺しており、政権掌握により、こうした粛清行為が拡大する恐れもある。命の危険を感じたり、人権状況や生活環境の悪化を懸念する人々がアフガン国内から脱出する動きもあり、近隣諸国に流出する難民も増える可能性がある。

タリバン政権の誕生は、周辺国にも影響を与えそうだ。東西冷戦下、パキスタンは、アフガンに侵攻したソ連による共産化を阻止するため、アメリカから資金を得て、ソ連軍と戦うムジャヒディン(イスラム戦士)を支援、タリバンの生みの親となった。

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