アフガン撤退に見えるバイデンの「血の国境」論

民族・宗教で住み分けた国境線で平和は訪れるか

タリバンがアフガニスタンの首都カブールを陥落させた後の記者会見でのバイデン大統領(写真・2021 Bloomberg Finance LP)

アメリカ史上最長のアフガニスタン戦争。20年も支えてきた政権が崩壊することを許してでもアメリカ軍撤退を強行した。結果、タリバン勢力が全土を掌握した。誰も望んでいないことであるが、これによりアフガニスタンが「テロの温床」になる可能性もある。

それでもバイデン大統領はアフガニスタン撤退が正しい判断だったという。カブール陥落は46年前のベトナム戦争でのサイゴン陥落時の混乱を想起させた。ベトナム戦争は今もアメリカ社会のトラウマであるにもかかわらず、なぜこのタイミングで、このような形でアフガニスタンを撤退する判断が正しいとバイデン大統領は言い切れるのか。

中東全体を再編させる「イラク3分割計画」

バイデン大統領は中近東のエキスパートだ。アメリカ上院外交委員会委員長を務めていた2007年、イラクの宗派対立が激化して多くのイラク国民が犠牲になっていることが問題になった。

アメリカ政府はイラクの安定化に向けた政治的解決の唯一の方法は、イラク分割。すなわちイラクを民族と宗教によって分割することでこそ、アメリカ軍の撤退が可能になると主張しだした。2007年9月26日、上院はイラクを民族と宗教によって分割する拘束力のない決議案を賛成75、反対23で可決した。

バイデンはイラクに何度も足を運び、イラクの政治家たちにクルド、シーア、スンニの3地域分割を試みたが、イラク側から強く反対されて断念せざるをえなかった。イラクの国家分裂の先には、中東で実現すべき「新世界秩序」(New World Order、略称:NWO)構想があった。

実はイラク戦争が行われた2003年、アメリカでは中道派の総本山ともいうべきシンクタンク「外交評議会」が、「イラクを3分割すべきだ」という提案を出していた。退役軍人でアメリカのテレビ局FOXニュースのコメンテーターだったラルフ・ピーターズは『Armed Forces Journal』という軍・政府・業界幹部向けの雑誌に「血の国境:よりよい中東の姿」という記事を2013年10月に寄稿している(Peters’ “Blood borders” map)。

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