アフガン撤退に見えるバイデンの「血の国境」論 民族・宗教で住み分けた国境線で平和は訪れるか

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【イラク】クルド、スンニ派、シーア派の3つの国に分かれる。
【シリア】地中海沿岸をレバノンに加えてフィニキア国家を復活させる。
【ヨルダン】既存の国境に加えて、サウジアラビアの一部が加わる。
【サウジアラビア】国土をヨルダンや後述の「新シーア派国家」やイエメンに譲り小さくなる。イスラムの宗教聖地であるメッカとメディナは宗教機関でありながら、国としての側面も持つバチカンのような国にする。
【イラン】現行国土の一部をアゼルバイジャン、クルディスタン、シーア派国、自由バルーチスターンに譲り、言語的にも歴史的にも民族とつながりが深いアフガニスタンのヘラート州をもらい、新たなペルシャ国家になる。
【アフガニスタン】イランにヘラート州を譲る代わりに、パキスタン北西部のパシュトゥーン人たちの部族地域が加わる。
【パキスタン】不自然な国を自然な国に戻すためには、バルーチ人の住む地域を手放し、「自由バルーチスターン国」の樹立を認めないといけない。
【湾岸諸国】クウェートは既存のまま残し、アラブ首長国連邦のドバイを富裕層の行楽地として残す以外は「新シーア派国家」に加わる。この「新シーア派国家」というのはピーターズの案では、イランの同盟国ではなく、むしろ袂を分かつ国になる。

流血をも容認する?バイデン大統領の信念

ピーターズはこのように見直すことにより、宗教や血のつながりの濃いものが住む自然な国になる。それが実現しない限り流血は続き、アメリカも巻き込まれて血を流すことになると結論づける。

バイデン大統領はオバマ政権での副大統領だった2009年から2017年の間、立場上できなかったからということもあったのだろうが、このような分断案を蒸し返すことはなかった。だが、いまアフガニスタンが混乱して殺し合いになってもよいと考える根底には、「血の国境」が正しいという信念を持っているからであろう。

2013年9月にニューヨーク・タイムズ紙が以下のような地図を公開して、中東の5カ国が14カ国に分裂するかもしれないと報じた。(How 5 Countries Could Become 14

統廃合の基準や新たな国境案には1990年代のCIA案など他にいろいろあるのだが、要はこのような話はずっと前からあり、今もあるということだ。

ヘンリー・キッシンジャー元国務長官も1972年に「アラブ諸国を民族・宗派で分けるべきだ」と述べた。ジョージ・W・ブッシュ大統領の大中東構想、同じブッシュ政権当時の国務長官だったコンドリーザ・ライス氏の「創造的破壊(クリエイティブ・カオス)」発言も、トランプ政権での中東和平構想や大統領上級顧問だったジャレッド・クシュナー氏の「世紀の機会」にも「血の国境」説が生きている。

日本人の多くは、日本が「いい国」なのは単一民族国家と考え(実際は違うが)民族間の対立や争いがないからと考えている。中近東を「血の国境」で単一民族国家に分けたら、日本のような「いい国」になり平和になると思うだろうか。あるいは、血で血を洗う争いも致し方ないのだろうか。

アビール・アル・サマライ 「ハット研究所」所長

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イラク・バグダッド出身。バグダッドのテクノロジー大学コンピューターサイエンス学部卒業。湾岸戦争後の1991年末に来日。アラブ・イスラム言語文化専門シンクタンク「ハット研究所」所長。中東情勢や中東メディア報道研究、イスラム・中東問題の勉強会、ハラルやムスリム対応のビジネスコンサルティングなどを手掛ける。外務省研修所、慶應義塾大学、学習院大学非常勤講師。NHKアラビア語ラジオ講座出演。

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