「毎日がつまらない人」が浪費に走る納得の理由 平凡な生活や内面の充実が今、重視されている

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コロナでリモートワークが増えたことで、家にいる時間が長くなり、日常に対する感覚の変化が加速しているとも言えます。

コロナ以前は、都心回帰があり、東京都内では駅前に割安のタワマンが建つなど、バブルの頃に買えなかったものを若いサラリーマン世帯が買うということが起きていました。

子どもがいない夫婦でも、駅近の1LDKぐらいのマンションに住んでいて、家はあくまでも寝に帰る場所であり、そこでくつろぐということはあまり考えられていませんでした。

ところが今では、夫婦2人ともがリモートワークになり、1日中家にいるので、気詰まりで、嫌になってしまったという話をたくさん聞きます。

週1出社でよいとなって、郊外の広い3LDKなどに移り、日常を楽しめるようになったという人も増えていますよね。夕方は満員電車に揺られていたのが、いまでは自宅での仕事を終えたら、ベランダに出て、空でも眺めながら、ちょっと冷えた白ワインを飲んでみる、というようなことをしているわけです。充実度が違いますよね。

通勤時間がなくなり、仕事以外のことに興味を持てるようにもなって、自分の身のまわりや内面に目を向ける人も増えているのではないでしょうか。

昭和の成長時代にあった「幻想」

空いた時間を何に使うのかと考えた時、それを自己啓発本を読むことに充てる人は少なく、プランターに野菜を植えてみたり、手芸やプラモデル、料理など、より地味な方向へ向かっているケースが多いように感じます。これはマインドフルネスですよね。

昭和の成長時代は、出世して、将来なにかできるという幻想を見ながらみんなが必死に働いていました。サラリーマンは、頑張って偉くなって、部長になり、定年したら夫婦でゆっくり世界旅行をするぞ、なんて思っていたのです。当時は、定年後の生活を楽しく描いた連載なども人気がありました。

しかし、今はそんなことはできません。お金もないし、生活習慣病でメタボになったり、体を壊したり、そして妻には遊ぶ友達がいて、夫にはどこにも居場所がなかったりするのです。

一方、地方の漁村や農村などへ行くと、いつでもお年寄りが幸せそうにしています。マウンティングなんて人生で一度もしたことがなく、若い頃からずっと漁業や農業をやっている。訪ねてきた人に、野菜を分けてあげたりして、ニコニコと笑顔でとても気持ちがいい。

土を掘り、野菜を育て、収穫するというような健全な日常を送り、余計なことは考えない。第一次産業に従事する人々こそ、日々マインドフルネスだと思うのです。

(構成:泉美木蘭、後編へ続く)

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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