簡素化進む「葬儀」に新風を起こすカノンの挑戦 葬儀・弔いの新しい形「安置葬」とは一体何か

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安置期間中には、おじいちゃん思いの孫2人が、折り紙を使った立体花の貼り絵を3日間かけて作り棺に納めたり、妻の兄弟と甥などが面会に訪れ、数時間にわたり思い出話をしていたそうだ。故人に対して、それぞれ感謝の気持ちを表せるのも、時間をたくさん取れる安置葬ならではだ。

遺族は葬儀後、「6日間という安置時間は、家族の宝物です。入居施設からの突然の知らせにパニックになり、もし、この6日間の時間がなければ、死を受け入れることはできなかった。気持ちの整理はまだまだできないし、もっと傍にいたかった」と話していたそうだ。

カノンで葬儀を行った遺族の多くが、儀式より安置期間中のほうが心に残ったと話すという。その理由について、三村さんは次のように説明する。

「ご遺族にとっては、弔いの時間が何より大切です。昔は、自宅に安置して故人と一緒に過ごすのも弔いの時間でした。ところが、都市部、とくに東京では、自宅ではなく安置所に安置するようになり、その安置所で滞在できるところはほとんどありません。

そのため、安置して故人を弔う時間が抜けてしまい、通夜式、葬儀・告別式という儀式だけになってしまいました。儀式だけではわずか3時間ほどです。3時間では、大切な人の死を受け入れてきちんとお別れするには短すぎます。そのため、儀式だけでは満足できない遺族が多くなっているのです」

カノン設立の背景

実は、三村さんは中学生だった娘をがんで亡くした遺族でもある。三村さんと一緒に想送庵カノンを立ち上げたメンバーの多くも、子どもや配偶者など大切な人を亡くした遺族だ。

「設立メンバー全員で、それぞれが大切な人を見送ったときに経験したよかったこと、嫌だったことなどを踏まえ、遺族にとってどういう弔い方がいいのかを時間をかけて検討しました。その結果、最後は亡くなった人と共にゆっくり過ごせるのがいちばんよいということで意見が一致し、それを『見送り葬』と名付けました」

「見送り葬」と「安置葬」の基本的な考え方は一緒だが、前者はやや抽象的でわかりにくいことから、コロナ禍にあったプランをつくるに際し、具体的でわかりやすい言葉として「安置葬」に変更した。

大切な人を見送った時に経験したよかったこととしては、三村さんの場合、娘さんにエンバーミング(遺体衛生保全)を施し、自宅に安置して5日間を一緒に過ごしたことだ。その後、葬儀場で3日間(仮通夜、通夜、葬儀・告別式)過ごしたが、遺族にとっては自宅の5日間のほうが大事だと思ったという。

「自宅では、娘の学校の友達などが次々にたくさん弔問に来てくれて、娘のことをいろいろ聞くことができたからです。当時、娘は病気でしたから生活のあらゆる面に気を配っており、娘のことは何でも知っていると思っていましたが、そうではありませんでした。例えば、学校の同じクラスの同級生と親御さんも来てくれて、娘はその体が弱かった同級生に積極的に関わってくれたとお礼を言われました。とてもうれしかったです」

三村さんは、娘さんを亡くしたことによるこうした体験によって、「弔いは、愛情であり、時間をかけるということが最も大切なのだということが、初めてわかりました。そのことを娘が教えてくれたと思っています」と明かす。

簡素化の流れが進む葬儀業界。その一方で、弔いの時間を大切にしたい遺族もいる。葬儀・弔い方は、家族葬や1日葬、安置葬などその家族が納得する形を選べることがいちばんだ。

塚本 優 終活・葬送ジャーナリスト

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つかもと まさる / Masaru Tsukamoto

北海道出身。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、大手終活関連事業会社の鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務める。2013年フリーライターとして独立。ライフエンディングステージの中で「介護・医療」と「葬儀・供養」分野を中心に取材・執筆している。ポータルサイト「シニアガイド」に「終活探訪記」を連載中。「週刊高齢者住宅新聞」などに定期寄稿。

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