あまり語られない「ママ友」の関係が複雑な理由 『消えたママ友』など書いた野原広子氏に聞く

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「世間は冷たい、家族も理解してくれない。だから、保育園で同じ悩みを共有できるママ友が現れると、どっぷり深みにハマっちゃうんです。仲良くなってからの年数も短いのに、すべてを委ねられるような気がして、間違いが起きる。まだ人間として未熟だということに、自分自身も気づいていない。結局、ママ友同士の関係も、みんな失敗しながら学んでいくのでしょうね」

ママ友はそれでも、一定期間が過ぎれば離れることができる。ママ友同士のトラブルは、歳月を重ねれば記憶が薄れることもある。野原氏は、ママ友問題を描くことに決まったとき、編集者からトラブルの体験はなかったか聞かれた。

「平和でしたよ」と答えていたにもかかわらず、描き終えてから「すごいのがあったわ」と自身の体験を思い出したという。行動範囲が広がり視野が広がると、ママ友との関係は変化することもある。そして、子どもの手が離れれば薄れがちな関係性でもある。

「夫より大事なものがある」から離婚しない

問題は夫婦関係だ。離婚するかどうか悩む女性を描く作品もある野原氏自身、離婚している。直接的な離婚の要因ではないものの、子育てはワンオペ状態だった。

「私の親は遠くにいましたし、夫がとにかく家にいない人だったんです。娘が赤ちゃんのときは、家の中で事故を起こさないか心配で、1週間自分の髪の毛が洗えないときもありました。近くに義母が住んでいたので、義母と2人で育てたような感じでした」と話す。

実際に離婚をすると、見えてくることがあるという。

「離婚したいと思っていたときは、周りの友人たちも『離婚する』と言っていたのですが、結局本当にしたのは私だけ。断念した理由を聞くと、経済的にやっていけないという人が多いです。熟年離婚をしようとしたら、成人した子どもに止められた人も。いくつになっても、子ども中心という人はいるんですね。

離婚を恥と考える年上の世代には、『旦那が死ぬまで我慢する』という人もいます。離婚をすると、長年住んだ家や地域、友人を捨てなければならなくなる。夫よりも大事なものができていることが、離婚しない要因になるんです」

夫婦関係を再構築する糸口が見えたから、ではなく、結婚生活を支えるその他の要因ゆえに離婚しない。しかし、話し合いをあきらめて口をきかなくなっても向き合おうとしなかった夫とは、うわべだけの関係しか続けない。密かにそんな結論を下した妻と同居を続けている男性も、実は多いのかもしれない。本人が気づいていないだけで。

野原さんから話を聞くと、母親たちのつらさは単に孤独なだけでなく、孤立しているからとわかる。ママ友とは親しいようでいて距離がある。家族からも母親としての責任を押しつけられる。世間の眼も冷たい。本来子どもは、育っていくうえで何人もの手助けを必要とする。

今は大きな顔をしている大人たちも、たくさんの人の手を借りてきたから今があるのだ。それなのに、母親に全責任を押しつけ子どもを排除しようとしている。せめて母子を温かい目で見つめる寛容さが、私たちには必要なのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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