あまり語られない「ママ友」の関係が複雑な理由 『消えたママ友』など書いた野原広子氏に聞く

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ではなぜ、そんな仲よしのママ友同士で大事件が起こるのか。「ママって全力で何でもやるから、コミュニケーションのちょっとしたつまずきで相手が裏切ったと感じてしまい、ヘンな方向に行くのかもしれません」と野原氏は言う。

ある日、仲よしだったママ友に何も告げず失踪する女性を軸に描いた『消えたママ友』からは、ママ友たちの孤独がくっきりと浮かび上がる。野原氏によると、母親の孤独には3つの要因がある。

母親たちを孤独にさせること

1つはSNSでの情報交換が活発なため、周囲の視線が気になり、「楽しくなきゃいけない、幸せじゃなきゃいけないということが、頭のてっぺんにある」ということ。しかし、そうした孤独は、SNS以前の時代にもあった。

「私自身、子どもが小さいときはとても孤独を感じていました。お母さんは幸せで当たり前、いいお母さんで当たり前と思われている。おっぱいが出ないだけでも、『じゃあもっと努力しろ』、と世の中から突き放される」

2つ目の要因は、そうした世間の側の問題だ。

「小さい子どもを抱えるママは肩身が狭い。『妻が口をきいてくれません』の中で、バスの中で子どもがぐずったら、乗り合わせた男性に怒鳴られた、と妻が話すシーンがあります。それは私が実際に目にした場面がもとになっています。バスで泣く子に対しておじさんが『うるさい!』と怒鳴った。席が遠かったので何もできなかったんですが、申し訳なさそうに降りるお母さんの姿が心に残っています。母親はしっかりしろ、というプレッシャーが強いから孤独なのかもしれません」

『妻が口をきいてくれません』は手塚治虫文化賞を受賞した(©野原広子/集英社)

3つ目の要因は、家族の中でも孤独なこと。先のシーンで妻の話を聞いた夫は「それはママが悪いよ」と決めつける。味方になってほしい夫が、世間の側に回ってしまう。母親の孤独の最大の要因は、夫婦関係ではないだろうか。

「夫婦の話をいろいろな人に聞くと、壮絶な話は多いんですけど、あえて普通のところを拾って描かせていただいています」と野原氏。十分に怖い描写が多いが、現実はマンガの上を行くらしい。

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