あまり語られない「ママ友」の関係が複雑な理由 『消えたママ友』など書いた野原広子氏に聞く

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『妻が口をきいてくれません』を描いたきっかけは、知り合いの男性から「うちの妻が口をきいてくれないんだよ」というぼやきを聞いたこと。インターネットで検索したところ、「すごい数の『妻が口をきいてくれない』という投稿が出てきて、読んでみると、『家に帰りたくなくて動悸がするほどひどい』『精神科に通っている』といった人も多い。家に帰った途端、妻が明かりを全部消したことがショックだった、という人もいました。

私自身も夫に口をきかなかった時期があって、何となくやっていたことだったんですけれど、調べて初めて夫たちの苦しい状況を知りました。男性はこんなに繊細なのか。大変だなと思って、作品化の方向を探り始めたんです」

妻と向き合わずに「逃げる」夫たち

一方で、この尋常ならざる事態に対し、「妻と向き合うのではなく、別のところに行く人が多い。同作中でも夫はアイドルに逃げる。旦那さんも仕事で疲れているのはわかるんですけど……」。

妻も向き合わず、口をきかない戦略に出るのはどうなのか。「女性には、察してくれないとあきらめてしまう人が多いのかもしれません。男性から見れば『エスパーじゃないんだから』となる。でも、口で言うとムカつかれるのを知っているから、妻は話さないのではないでしょうか。他人は話し合えばわかる、と簡単に言いますが、それができないから皆さん悩むのです」。

『妻が口をきいてくれません』(©野原広子/集英社)

夫婦2人だけで子育てをするのではなく、両親などほかに頼れる人がいれば改善するのでは、とも単純に言えない。『消えたママ友』では、祖母が手伝いの口実のもと、跡継ぎとなる孫を取り込んで母親の出番を奪っている。その関係性も、野原氏が実際に聞いた話がもとになっているという。

「結婚前からつき合いがある友人が、子育てが終わってから打ち明けてくれた話なんです。お姑さんとちょっと仲が悪いのかなとは思っていたんですが、おばあちゃんが孫を抱いているのを見ても過呼吸になるほど追い詰められ、結局別居。それを今になって打ち明けることにも衝撃を受けました。本当に深い悩みは、誰もわかってくれないだろうと思って、友人に言わないことも多いかもしれません」

確かに年齢が上がるほど、悩みは複雑になり、親友であってもそうたやすくは打ち明けられない。そして母親ならではの最大の苦しみは、母親の役割からは逃げ出せないことではないだろうか。

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