聖火最終ランナー「大坂なおみ」だった必然的理由 開会式から見えた今回の東京五輪のメッセージ

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そして今回の東京オリンピックである。

開会式の制作チームと組織委員会はどのような人選をするのか。私はスタジアムに登場するランナーたちから「意図」を汲むつもりで中継を見ていた。

今回、組織委員会が「3つの基本コンセプト」として掲げているのは、

「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」である。

そして招致の際に強調された東日本大震災からの「復興五輪」という側面もある。

開会式直前に制作陣から去ることになった、小山田圭吾氏と小林賢太郎氏は「多様性と調和」に相反する過去の言動が問題視された。森喜朗・前東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の「女性蔑視発言」による辞任騒動もあった。

特に今回クローズアップされる「多様性と調和」を象徴した人物でなければ「2020東京オリンピックの聖火最終ランナー」は務まらない。

レジェンドが続々と登場

スタジアムにまず登場したのは、吉田沙保里さん、野村忠宏さんという3大会連続金メダルの五輪レジェンドだった。オリンピアンとして誰からも文句は出ないだろう。

しかしこの時点で、最終ランナーは「ゴールドメダリストではない」ことがまずわかった。

仮に過去の金メダリストを最終ランナーに起用するのであれば、この2人を上回る実績の選手はいない。

愛される元選手ということでいえば高橋尚子さんも有力な候補なのだが、すでに「国旗」の持ち手として登場ずみである。

続いて、長嶋茂雄さん・王貞治さんというプロ野球界のスーパースターが登場した。日本人にとって高度経済成長の時代に夢を与えてくれた「ON」である。長嶋さんの補助役には松井秀喜さんが付いた。野球がない国の人々にとっては少々ピンと来なかったかもしれないが、日本の「ON世代」には感慨もひとしおだったのではないか。

思えば前回の東京オリンピック、1964年はONの全盛期でもあったのだ。

現在80代となったONに聖火ランナーに登場いただくことで、組織委員会は「過去から現在」を繋ぐイメージを託したのだろう。

次にコロナ禍の日本を支えた医療従事者の2人と、パラリンピックの夏冬大会での金メダリスト土田和歌子さんに聖火は渡った。

土田さんが笑顔で進み、会場のセンター付近で待っていたのは岩手県・宮城県・福島県の東日本大震災の被災地から来た少年少女たちだった。「震災からの復興」と「未来への継承」を託された人選と言えるだろう。

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