「誰でも表現者」時代の本質は「リズムと社交」 世界を広げる読書案内としての「山崎正和」評伝

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山崎塾で講評を行う山崎正和氏(写真:神谷竜介)
2020年8月に急逝した山崎正和氏の一周忌を前に、逝去の直前まで行われたインタビューや関係者の証言をまとめた初の評伝『山崎正和の遺言』が刊行された。
山崎氏が最晩年に立ち上げた「知」の試み研究会(通称:山崎塾)などに関わった神谷氏による、評伝を入口にした山崎作品の読書案内をお届けする。

最期の言葉にこめた思い

どれほど優れた学者であっても、研究と教育と社会貢献の3つをバランス良く、高いレベルでこなすことは容易ではない。

『山崎正和の遺言』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

山崎正和という人物は、その3つを実にさりげなく、上手にやってのけるひとだった。『世阿弥』『木像磔刑』『オイディプス昇天』をはじめ、歴史への深い洞察に裏打ちされた戯曲作品をもつ劇作家として、『病みあがりのアメリカ』『おんりい・いえすたでい′60s』『柔らかい個人主義の誕生』『社交する人間』など、時代と社会の端々にまで目の行き届いた分析を世に問うた評論家として、最晩年にいたるまで隠れもない活躍を続けた山崎は、その一方、関西大学、大阪大学で長らく教鞭を執り、設立に深くかかわったサントリー文化財団における若手研究者支援活動などを通じて、多くの後進を育て上げた。

事実、現在各界で活躍する人々の中に、直接の門下生のみならず山崎に親炙・私淑するという者は少なくない。半世紀におよぶ交友関係を持ち、生前、山崎が自ら評伝の執筆を託した片山修の筆にも、片山の取材に応じ本書『山崎正和の遺言』に登場した人々の証言の中にも、その敬愛の一端が垣間見える。

本書の企画は、「語り残したことがある」という山崎の思いから出発している。当然、そこには自らの年齢と体調を踏まえた死期への覚悟があったはずである。

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