軽すぎる?池袋暴走事故「禁錮7年求刑」の妥当性 自動車による死傷事故の法的な考え方を解説

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交通事故が起きた場合に問題になる法的責任には、民事上の責任、行政上の責任、刑事上の責任と3つの法的責任が考えられる。

民事上の責任は、加害者の被害者に対する損害賠償責任で、現在では多くの場合、自動車保険(自賠責保険、任意保険)によってカバーされる。行政上の責任は、行政による免許停止、免許取り消しなどの行政処分が課せられる形で問題となる。刑事上の責任は、運転手に事故を起こしたことについて「過失」がある場合に過失犯として刑罰が科せられる責任だ。

交通事故を起こした運転手には、刑事上の責任だけでなく、行政上の責任、民事上の責任が問われるということは前提として押さえておきたい。

わざとでなければ罰せられないがもともとの考え方

これまで自動車の交通事故に関しては刑法の業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)で処罰されてきたが2013(平成25)年に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が制定され、現在ではこの法律が定める「自動車運転過失致死傷罪」(同法5条)で処罰されている。

同法5条は「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」と定める。

ここでいう「自動車の運転上必要な注意を怠り」というのが「過失」行為であり、このような犯罪は過失犯と呼ばれている。今回の件でいえば、事故を起こしたことについて運転手である被告人に「過失」があったのかが問われている。過失があったというためには、自動車の運転上必要な注意を怠ったこと、すなわち注意義務違反が必要である。

検察官の主張に基づけば、自動車の運転手として、アクセルとブレーキを間違えないで注意をして運転すべき義務(注意義務)があったのに、それを怠って、アクセルとブレーキを踏み間違った結果、事故を起こしてしまったことが「過失」にあたり、それを刑事裁判において検察官が合理的疑いを超える程度に立証しなければならない。

交通事故の刑事裁判では、過失の有無が争われることはしばしばあり、実際に交通事故を発生させてはいるが、運転手に過失が認められないとして無罪判決が出されることも珍しくはない。

刑法上、犯罪が成立し、刑罰が科されるには「故意」がなければならないのが大原則だ。これは故意犯処罰の原則と呼ばれる(刑法38条1項)。要するに「殺意」をもって人を殺したりするなど、「わざと」した場合に限って犯罪として処罰するというのが原則的な考え方で、「わざとではない」場合は罰せられないのが、もともとの刑法の考え方であった。

次ページ科学技術の発展により「過失」も刑罰を科されるように
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