「銭湯生活デビュー」で常連にいきなり叱られた訳 ご近所付き合いを始めたときに起こった「事件」

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そうだよことほど左様に、わが家の機能を街全体に解き放てば良いではないか。近所のカフェがわが書斎、とかさ。いつも淹れたての美味しいコーヒーをその道のプロが出してくれる書斎なんて、よほどの金持ちだって持っちゃいないだろうが、考え方一つで、私はそれほどの「超豪邸」に住まうことができるのである。

徒歩3分の大浴場は「豪華な温泉旅館」?

それから風呂。原発事故を機に始めた超節電生活にはまっていた私は、新居ではさらにパワーアップ(パワーダウン?)してガス契約をせず暮らしてみようと思っておりまして、都合のよいことに歩いて3分のところに清潔で小さな銭湯があったのでここをわが風呂と認定する計画であった。

で、当初は「銭湯通い」なんて、まるで風呂なしアパートに住んでいた昭和の貧乏学生みたいだと卑下する気持ちがない訳じゃなかったんだが、これも考えようである。

歩いて3分のところに大浴場なんて、まるで豪華な温泉旅館。だって大きな宿ではだいたいそのくらいの距離に大浴場があるのが普通ですよね。つまりは、私は豪華温泉旅館で生活するムカシの作家大先生のようなものと妄想することだってできるのだ。

そんなこんなであれこれ考えていると、私はこれから、これまでの生涯でダントツの「豪邸」で暮らしていくのだという気持ちがどんどん盛り上がってきた。

窓から見渡す限りが私の家。感じの良い書庫、ウォークインどころか歩き回ってもどこに何があるかわからないくらいの巨大クロゼット、そしていつ行っても最高のお湯が沸いている巨大な浴場……。

いやいやまったくもって王様のような暮らしではありませんか!

考えてみれば、それもこれも、高い家賃を払って中途半端なゴーカマンションなどに住んでいた時はまったく思いつかなかったことばかりである。っていうか、思いつく必要もなかった。何しろわが家の中に、今にして思えばミニチュアのようなせせこましい設備が完璧に完備されていたのだから。

で、そのミニチュアの中で生きている自分がリッチなのだと思っていたのだから。私ってばなんという狭い思い込みの世界で延々と生きていたのだろう。その世界を維持するために必死になって家賃を稼がねばと頑張っていた自分は、まさに狐にでも化かされていたのではないだろうか?

このようにして、私は完全に自分で自分を騙すことに成功したのである。騙すなどというと言葉が悪いが、考えてみれば今までだって私は何かに洗脳されそれだけを真実だと思い込んで生きてきたのであり、要するにこれまでは他人に騙されて生きてきて、これからは自分に騙されて生きていくってことにすぎない。

何か問題でも?

次ページこれはまだ始まりにすぎなかった
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