CIAが同時多発テロの予兆を見逃した「ある理由」 事件から20年、様々な原因分析がなされたが…

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2001年6月、ムサウイがミネソタ州ミネアポリスの航空訓練学校に入学するほんの数週間前、アリゾナ州のFBI分析官ケネス・ウィリアムズは次のようなメールを送信した。「FBI本部並びにニューヨーク市に通告します。オサマ・ビンラディンによる組織的な計画の可能性が浮上しました。民間の航空大学に複数の生徒を送り込んでいるもようです」。

ウィリアムズ分析官はほかにも本部に対し、国内にある全航空訓練学校の関係者に事情聴取して、訓練目的でビザを申請したアラブ系の学生をすべてリストアップすべきだと訴えた。これはのちに「フェニックス・メモ」と呼ばれる有名な文書だ。しかしなんら対策はとられなかった。

CIAの反論

これだけの兆候があったにもかかわらず、アメリカの情報機関は潜入捜査などを開始せず、テロ計画が未然に特定されることはなかった。これに関し、上院情報問題特別調査委員会は次のように結んでいる。

「テロリストがアメリカの象徴のいくつかを攻撃の標的としていたにもかかわらず、わが国の情報機関は、2001年9月11日以前にすでに見えていた『点と点を結ぶ』能力に欠けていた。それが最も根本的な問題(中略)である」

これは極めて手厳しい評価だ。CIAがむきになって反論したのも無理はないかもしれない。彼らは間違った行動はとっていないと主張した。また「テロ計画は容易に察知できたはずだと考えるのは、事が終わった現時点で物事を見ているからにすぎない」と訴え、ある心理実験のデータを引き合いに出した。

それは心理学者のバルーク・フィッシュホフが共同研究者とともに1970年代に行った実験だ。ニクソン・アメリカ大統領による歴史的な北京訪問を前に、それがどんな結果をもたらすか被験者に予想してもらうという趣旨だった。予想の選択肢は「ニクソン大統領は毛沢東議長に少なくとも一度は会う」「ニクソン大統領は訪問が成功したと発表する」など、いくつか事前に用意されていた。

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