CIAが同時多発テロの予兆を見逃した「ある理由」 事件から20年、様々な原因分析がなされたが…

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9.11以降、さまざまな調査が始まり、なぜこれほど大胆なテロ計画を、何万人もの人員と何百億ドル(何兆円)もの資金を誇るアメリカの一連の情報機関が阻止できなかったのかが問われた。調査報告の多くは、このテロ攻撃を未然に防げなかったのは壊滅的な失態だと結論づけている。

極めて厳しい批判の大半はCIAに向けられた。FBIが基本的に国内の治安維持を担っているのに対し、CIAはそもそもこうした国外からの脅威に対抗するために設立された諜報機関だからだ。

1998年後半~1999年前半にアルカイダが同時多発テロ計画に着手することを最高指導者のオサマ・ビンラディンが承認した時点から、9.11当日まで、CIAにはその実行を阻止する猶予が29カ月余りあったのにできなかった。

ビンラディンの名は報告書に繰り返し登場

コロンビア大学ザルツマン戦争・平和研究所のリチャード・K・ベッツ前所長は、9.11は「アメリカにとって第2の真珠湾攻撃」だと指摘する。また諜報活動研究の第一人者、マイロ・ジョーンズとフィリップ・シルバーザンの両氏は、9.11を阻止できなかったのは「CIA史上最大の失態」と明言した。

もっともな意見だ、と言う人がいてもおかしくはないだろう。なにしろ9.11までの数年間にはいくつもの手がかりがあった。アルカイダは、少なくとも1993年にはイスラム教のタブー(自殺)を破って自爆テロを実行している。裕福な実業家の息子としてサウジアラビアに生まれたビンラディンの名は、アラブのテロ組織に関する諜報報告書に繰り返し登場していた。

クリントン政権下でテロ対策担当の国家調整官を務めたリチャード・クラークは、ビンラディンについてこう語った。

「なんらかの組織的な力が動いているようだ。おそらく彼だろう。われわれが知りうる限り、彼が複数のテロ組織をつなぐ唯一の共通点だ」

ビンラディンが最初にアメリカに宣戦布告したのは1996年9月2日録音声明の中で、「イスラムに対する弾圧者」を壊滅すると明言した。これが一部のムスリム(イスラム教徒)から大きな支持を得る。通常、テロ組織の半分は1年と持たずに解体する。10年存続するのはわずか5%だ。だがビンラディンが結成したアルカイダは永らえた。いわゆる「外れ値(アウトライアー)」(統計上、ほかから大きく外れた値)である。

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