CIAが同時多発テロの予兆を見逃した「ある理由」

事件から20年、様々な原因分析がなされたが…

2007年9月11日に行われた光の追悼(写真:STEPHEN HILGER/Bloomberg)  
約3000人が死亡したアメリカ同時多発テロから9月で20年になります。
この史上最悪のテロを、何万人もの人員と何兆円もの資金を誇るアメリカの情報機関は防ぐことができなかったのか――。こうした批判の目は、事件後とりわけCIAに向けられました。実際、複数のテロの「兆候」があったにもかかわらず、アメリカの情報機関は潜入捜査などを開始していませんでした。
このCIAが犯した「史上最大級の失敗」の原因の1つに、「組織の多様性のなさ」を挙げる声があります。
マシュー・サイド氏の新著『多様性の科学』では、CIAやGoogleなどのグローバル企業などの事例をとり、同じ特徴の者ばかりを集めた多様性に欠けるチームでは、致命的な失敗を未然に見つけ高いパフォーマンスを発揮することはできない、と説いています。
本稿では同書より一部を抜粋・編集し、お届けします。

テロ1カ月前、犯人はアメリカの「航空訓練学校」に入学

2001年8月9日、33歳のモロッコ系フランス人、ザカリアス・ムサウイは、ミネソタ州イーガンのパンナム・インターナショナル・フライト・アカデミーに入学した。この航空訓練学校には高性能のフライトシミュレーターが完備されており、民間ジェット機の操縦を総合的に学べる。ムサウイは、少なくとも表面的には、ほかの生徒となんら変わりなかった。人当たりがよく、好奇心旺盛で、一見して裕福な印象だった。しかし気になる点もあった。

まず、ムサウイは8300ドル(約87万円)という学費の大半を現金で、しかもすべて100ドル札で支払っていた。そして訓練が始まると、彼はコックピットのドアに異常な関心を示し、ニューヨーク市内やその近辺の飛行パターンについて繰り返し質問をした。

不審に思ったスタッフは、ムサウイが入学して2日後、ミネソタ州のFBIに通報。ムサウイは逮捕された。FBIは尋問を行うと同時に、ムサウイのアパートの捜索令状を申請。しかし捜索が必要な根拠を十分に示すことはできずじまいだった。つまりこの時点でアメリカは、ムサウイという不審な人物と、その背景にうごめくさらに大きな脅威─イスラム過激派組織─とを結び付けることができなかった。

ムサウイには入国管理法違反の疑いもかけられていたが、そんな人物が、史上最悪のテロリスト事件のほんの数週間前に、アメリカの航空訓練学校で飛行技術を学んでいたのである。

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