最強の筋トレ、最強の食事、最強の睡眠、最強の瞑想……かつてないほどセルフケア、セルフコントロール市場が盛り上がりを見せている。
経済産業省の試算によれば、ヘルスケア産業の市場規模は、2016年に約25兆円だったものが2030年には約40兆円に拡大する見込みだ(平成29年度健康寿命延伸産業創出推進事業調査報告書)。
前記報告書において健康保持・増進に働きかける「知」の分野でとくに拡大が期待される商品・サービスは、ヘルスケア関連アプリとなっており、アプリ市場の成長・成熟に伴う拡大が予測されると指摘したとおり、デジタルヘルス市場はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などのグローバル企業を交えた覇権争いに突入している。
従来と異なる意味を持ち始めた私たちの身体
冒頭に挙げた見覚えのあるキャッチコピーの数々は、高齢化と健康意識の高まりを背景にした近年の消費者ニーズ以上に、私たちの身体が従来と異なる意味を持ち始めていることを表している。
トップエグゼクティブの健康指導を行う世界的に人気のヘルスドクターであるアイザック・H・ジョーンズが「健康というスキル」という言い方をしていることが象徴的だ。彼が最近、元プロサッカー選手の石川勇太と執筆した食事術に関する著書では、「食事を変えることで自分のパフォーマンスを最大化させ、仕事の生産性を高めると同時に、ウイルスや感染症に負けない免疫力を身につけることになる」と銘打っている(『THE EAT 人生が劇的に変わる驚異の食事術』扶桑社)。
ここには、私たちの身体が「健康資本」とも言うべき資産的価値を付与されると同時に、ストレスフルな社会を生き抜いてゆくための唯一の拠り所となっている現実が示されている。
かつて社会学者のアンソニー・ギデンズは、自己の振る舞いの根拠となるものが絶えず検証と修正にさらされ、「なぜこのような生活習慣を選んでいるのか」といった問いから無縁ではいられないことが現代の特徴とした。これをギデンズは、個々人の身体に関して「自分自身の身体をデザインする責任を負うようになった」と表現した(『モダニティと自己アイデンティティ 後期近代における自己と社会』秋吉美都・安藤太郎・筒井淳也訳、ハーベスト社)。
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