希代のプロデューサーが「遺言」に「仕掛けた罠」 自分で立ち、自分で考えるということの重要性

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にもかかわらず、あえてサントリー文化財団における山崎に焦点を合わせたのは、そこにこそ山崎の理念が最も明確に体現されており、かつ今後の日本社会や文化にとって大きな意味を持つと考えたからなのであろう。本書において片山は「仕掛けた罠」という表現を用いているが、その意味するところは、文化財団での活動の中にこそ、山崎が後世に何を伝えようとしたのか、何が遺されたのかを理解し、考えるカギが見いだせるということだと思われる。だからこそ本書は書名に「遺言」という評伝らしからぬ言葉が入っているのである。

「社交」を通じた知のプロデューサー

では、サントリー文化財団での活動を通じて山崎が追求したのは、いったい何だったのであろうか。山崎にはオーラルヒストリーの記録として、御厨貴・阿川尚之・苅部直・牧原出が編者となった『舞台をまわす、舞台がまわる』(中央公論新社)という浩瀚な本があり、片山ももちろん多くを依拠している。それに加えて本書は、生前の山崎が2回にわたり本書のために応じたインタビューの記録を用い、さらに山崎とともに財団を創設した佐治敬三をはじめ、草創期に関与した人々の考えや発言を丹念に掘り起こすとともに、新たに多くの関係者にインタビューを行うことによって、財団での活動ぶりをさらに豊かに描き出している。

そこから改めて浮かび上がってくるのは、独立した近代人の交わりの空間を創出することこそが、山崎の目指したところだったことである。本来的な意味での「社交」の場、と言い換えてもよいだろう。独立した近代人とは、他人と交わる場、すなわち広い意味での公の場に私事を持ち込まず、他人に甘え、依存することのない人格である。そのような人が作り出す交わりは、相手をいたずらに論駁して勝ち負けを競うようなものではないのはもちろん、近い間柄にある人々や組織に甘え、家族や健康状態といった私事を晒しあうことで傷をなめ合うという、とりわけ昭和期までの日本ではごく一般的に見られた関係とは対極にある。そこでの飲食の役割も、絡む、乱れるといった行動を誘発するのではなく、社交をより円滑で豊かなものにするところにある。

サントリー文化財団を創設する際に、山崎がモデルの1つとしたのが、かつて中央公論社で開かれていた「中公サロン」であったことは、よく知られている。「サロン」という呼び名からもわかるように、そこで想定されるのは何か具体的なテーマや課題について研究成果を発表することではなく、その時々にメンバーが関心を持つ話題について自由闊達に、そしてときには脱線しながら話し、それを通じてそれぞれが知的刺激を得ることであった。したがって、話題の幅は政治や社会問題に限定されるわけでもなく、あえて言えば何でもいいのであろう。むしろ大事なのは参加者の人選であって、上に述べたような意味での社交を通じて自らの成果に還元していくことができるメンバーをいかに確保するかが、成功のカギとなる。

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