「孤独死」を否定しない「生き方」を示した知識人 徒党を組むことを嫌った山崎正和氏の「死に方」
「孤独死の何がいけませんか」
コロナ・パンデミックの中でいま、問われているのは、かつてのように「生き方」ではなく、「死に方」である。
考えてみれば、私たちはこれまで、人は必ず死ぬことがわかっているにもかかわらず、「死」にフタをし、見て見ぬふりをしてきた。ところが、いとも簡単に「生」が「死」へと逆転することを、コロナは私たちに教えた。お笑いタレントの志村けんがコロナによる肺炎のため、あっけなく亡くなったことは、そのことを印象づけた。
「死」がつねに隣にあることを認識した私たちは、これまで「生」を充実させてきたように、いかに死ぬかを真剣に考えるようになった。
京都大学名誉教授の佐伯啓思氏の直近の著作のタイトルはズバリ『死にかた論』(新潮選書)である。また、東京大学名誉教授の上野千鶴子氏の近著『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)はベストセラーになった。
まだある。作家・平野啓一郎氏の新著『本心』(文藝春秋)は、バーチャルリアリティーの技術を使って故人を再生できる時代に、人は「死」にいかに向き合うかを問うている。
「自分は君たちに何も教えることはないが、死に方を見せて上げることはできる――」
これは、戦後最大の知識人といわれる山崎正和氏が、大阪大学の「山崎ゼミ」の卒業生たちの会の席上、吐いた言葉だ。2014年のことである。
山崎氏が亡くなったのは、それから6年後の昨年8月19日だ。享年86。
では、山崎氏はどんな「死に方」を見せたのだろうか。
山崎氏は「孤独死」を否定しない。彼は、亡くなる7カ月前の2020年1月6日の「産経新聞」夕刊紙上で、自らの死生観をインタビューに応えて述べている。
「ちょっと乱暴な言い方ですが、死は誰でも孤独です。どんなに仲がよくても分け持つことはできない」とする。
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