「孤独死」を否定しない「生き方」を示した知識人 徒党を組むことを嫌った山崎正和氏の「死に方」

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「孤独死」は、徒党を組むことを嫌った山崎氏の「死」への姿勢そのものである。山崎氏の「生き方」、そして「死に方」には、「生」だけでなく、「死」のあり方もまた、個人に委ねられるべきことを教えてくれる。 

いかに「死」に向き合うべきか

私は、山崎正和氏が亡くなる半年前の2020年2月21日にインタビューした。山崎氏の“最後のインタビュー”だったと思う。

――今後も書き続けられますか。
山崎:やめるべきときがきたらやめます。いまのところ、そこがね……。いまは、何か社会に起きたら書く。
私の使っているパソコンは親切なんですよ。書き続けると、コーヒーカップのマークが出てくる。どうもお疲れのようですから、お休みになりませんかと(笑)。まあ、無視することもある。浮世離れした物書き生活ですよ。
――長年にわたって考えていらっしゃる哲学の分野についてはどうですか。
山崎:それは、こっちの勝手ですからね。やっぱりあるときに休みはくるでしょう。 

山崎氏は、2018年から雑誌『アステイオン』(CCCメディアハウス)に「哲学漫想」の連載を始めた。同年に『リズムの哲学ノート』(中央公論新社)を出版したが、まだ書き残したことがあるといった。

予定では、4回の連載のハズだった。4回目の原稿の締め切りは、8月末だった。ただし、途中から、もう少し書きたいと意欲を見せていた。5回目も書く予定だったと思われる。

実は、山崎氏は、3月頃から腹に水がたまるといって、腹水を除去する手術を受けることになっていた。

山崎氏は亡くなる1週間前に検査入院した。4回目の原稿を書くため、パソコンを携えていた。原稿は8月18日に仕上がった。

亡くなったのは、その翌19日朝である。

『アステイオン』に載った原稿の最後尾にこう添えられていた。「原稿未完・稿了」――。

いかに死ぬべきか。いかに「死」に向き合うべきか。その大きな問いに答えを出すのは簡単ではないが、山崎氏の見せた「死に方」は、「死」に向けた覚悟あってこそ、よりよい「生」につながることを、私たちに教えてくれるように思うのである。

片山 修 経済ジャーナリスト

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かたやま おさむ / Osamu Katayama

愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手掛けるジャーナリスト。鋭い着眼点と柔軟な発想が持ち味。長年の取材経験に裏打ちされた企業論、組織論、人材論には定評がある。

『豊田章男』『技術屋の王国――ホンダの不思議力』『山崎正和の遺言』(すべて東洋経済新報社)、『時代は踊った――オンリー・イエスタディ ’80s』(文藝春秋)、『ソニーの法則』『トヨタの方式』(ともに小学館文庫)、『本田宗一郎と「昭和の男」たち』(文春新書)、『なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?』(小学館)、『パナソニック、「イノベーション量産」企業に進化する!』(PHP研究所)など、著書は60冊を超える。

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