東レ・炭素繊維50年目の飛躍、米欧日の航空機主材料に《戦うNo.1技術》 根気強い開発が実を結んだ!
「MRJ」でついに実現 川下の成形工程まで一貫
そして今、新たな「壁」の克服に取り組んでいる。川下展開だ。
航空宇宙用途では、06年のボーイング、今年5月のエアバスとの長期供給契約により、炭素繊維の糸のみならず、液体樹脂を含浸させた中間基材までを大量に供給する軌道が敷かれた。だが、さらに川下の成形品(コンポジット)まで加工するには至っていない。
それはそうだ。ともに東レから炭素繊維、さらには中間基材まで供給を受けることになるボーイングとエアバスにとって、成形工程は唯一残された差別化要素だからだ。そのためボーイングもエアバスも、成形工程を東レに委ねることはない。
もちろん東レとしては「可能なかぎり一気通貫でソリューションを提供したい」(小泉愼一・副社長兼複合材料事業本部長)。ではどうするか。その突破口こそ、08年に設立された三菱重工業の子会社、三菱航空機が開発中の小型機「MRJ」だ。
ボーイング787で主翼の製造を担当し、成形工程も実施している三菱重工は、炭素繊維複合材料製とすることで20%の重量軽減を図っている。だが三菱航空機に対し、ボーイングの成形技術の流用はできない。だから三菱航空機は炭素繊維複合材料の加工で東レと手を組んだ。MRJの垂直尾翼には、成形工程を含む東レの先端技術が盛り込まれる。
「T800S」を一方向に配列し、ステッチでまとめて「一方向織物」としたうえで、「硬さと粘りを併せ持ち、なおかつサラサラ流れる熱可塑性樹脂」(須賀康雄A&Aセンター所長)に含浸し、独自の「エーバータム成形法」で造る。
航空機業界に新規参入する三菱航空機の目玉・MRJには、「東レの先端技術が4拍子そろって盛り込まれる」(榊原定征社長)わけだ。これで東レは川下の成形工程まで一気通貫で供給実績を獲得できる。
ただ、東レにはまだ課題がある。それはさらなる量産機種への供給だ。