東レ・炭素繊維50年目の飛躍、米欧日の航空機主材料に《戦うNo.1技術》 根気強い開発が実を結んだ!
これが奏功した。それはまるで「急がば回れ」。衣料品向けアクリル繊維で蓄積した低コストの「湿式紡糸」技術と、産業用途で蓄積した欠陥が少なくツルツルした表面を作れる「乾式紡糸」技術。衣料品向けと産業用途の技術がうまく結合し、次のステップへと道を開いたのだ。
両方の技術のいいとこ取りをした「乾湿式紡糸」技術が00年、航空宇宙用途に適した炭素繊維「T800S」を生んだ。低コストで表面に微小な欠陥の生じにくい高強度な素材の誕生である。乾湿式紡糸技術へは他社も挑戦したが、東レとヘクセルしかまだ成功していない。
「これで民間航空機に大量使用するのに必要な、高性能と低コストを両立させる素材ができた」。東レの生産本部で複合材料技術などを担当する吉永稔氏は語る。
航空機産業はこれを高く評価した。やがて06年、東レはボーイングに21年まで16年間、総額60億ドル分の炭素繊維複合材料を長期供給する包括的正式契約を締結した。これにより、中間基材の段階まで加工した、航空機一次構造材の大量供給に道筋をつけることになる。
かくして東レは、スポーツ用途や産業用途を幅広く手掛ける事業規模と、航空宇宙用途に中間基材まで供給する技術力を兼備。世界シェア34%でトップの座を固めた。とりわけ航空機用途ではシェア60%以上に達する。今年5月10日には、傘下にエアバスを擁する大手航空宇宙防衛企業EADSと、25年までの15年間、中間基材まで含む炭素繊維を長期供給する基本契約を締結した。
かつて不利だった航空宇宙用途で、米欧勢を圧倒する大成功の端緒の一つが、衣料用と産業用の技術の結合だったことに、地道な研究開発が育んだ本物の底力のようなものがにじみ出る。