帝王切開は残念?正しく知りたい3つの出産方法 日本は海外に比べ「無痛分娩」の割合が低い

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もうひとつのメジャーな出産方法である帝王切開は、分娩全体の20%程度を占めています(厚生労働省2017年「医療施設調査・病院報告の概況」より)。

厳密には予定帝王切開と緊急帝王切開の2種類に分けられ、前者は双子(リスクが低い場合は経膣分娩が可能な場合もあります)や逆子、胎盤が子宮の出口を塞いでいる(前置胎盤)場合に加え、前回の分娩が帝王切開である妊婦さんや、子宮筋腫の切除など子宮の手術をした経験がある妊婦さんに対して行われます。

緊急帝王切開は胎児または妊婦のリスクが致命的に高い場合、すなわち胎児側のリスクとしては何らかの理由でへその緒が首に巻き付いて低酸素血症になっている場合や、妊婦側のリスクとしては胎盤が分娩前に剥がれ、子宮内に大量出血が起こっている(常位胎盤早期剥離)場合などに選択されます。

帝王切開は腹部を切るため麻酔を用いますが、方法としては背中から麻酔薬を入れる「脊髄くも膜下麻酔」または「硬膜外麻酔」、あるいはその両方を用います(日本産科麻酔学会「帝王切開の麻酔 Q&A」より)。

脊髄は、断面図で見ると外側から背骨(脊柱管)・硬膜・くも膜・くも膜下腔・脊髄の順に包まれており、首から腰まで一直線につながっています。脊髄くも膜下麻酔はこの「くも膜下腔」まで針を挿入することで麻酔薬を迅速に脊髄に浸透させる方法です。腰付近から麻酔薬を注入することで、胸から足先の麻酔が可能となり、安全に帝王切開を行うことができます。

硬膜外麻酔は硬膜の外に細い管を挿入して麻酔薬を注入する技術であり、脊髄くも膜下麻酔よりも即効性はないものの、術後の痛み止めとしても用いられます。これらは先述した無痛分娩でも用いられている麻酔方法です(日本産科麻酔学会「無痛分娩 Q&A」より)。

意識があり、お腹を触られる感覚は残る

帝王切開中の妊婦さんは術中の痛みこそないものの、意識があり、お腹を触られる感覚は残ります。また時間との勝負であるため、消化器外科などが慎重に時間を掛けて病巣を探すような開腹手術と違い、皮膚や子宮を10cm前後、ざっくりと切り開いて赤ちゃんを取り出します。私自身、実際にはじめて帝王切開の現場を見たときは、これまでに見た手術との違いに衝撃を受けるとともに、産婦人科の先生方の迅速な手腕に感動したものです。

帝王切開で産まれる赤ちゃんは、経膣分娩において時間を掛けて産道を進む赤ちゃんと違い、いきなり羊水の中から取り出されるため外の環境に慣れておらず、最初(10分程度)は医師による呼吸のサポートが必要になる赤ちゃんも珍しくありません。

さらに、術後は個人差もありますが1カ月程度、傷口の痛みが残ります。頻回の授乳や沐浴をはじめとした育児を行いながら自身の傷の回復も行わなければならないため、そのつらさは実際に経験した方でないと想像に及びません。このように帝王切開は術前の不安や術後の痛みも含め、心身の負担が大きい技術です。しかし同時に母子両方の命を救う、大切な分娩方法でもあります。

出産は、妊娠や分娩の経過は妊婦さんの数だけあるといわれるほど人それぞれであり、その方法に良しあしはありません。今回お伝えした医学的知識が、ご自身や周囲の方が出産に関わる際の不安を解消する助けとなればと思います。

上原 桃子 医師・産業医

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うえはら ももこ / Momoko Uehara

横浜市立大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構理事。身体とこころの健康、未病の活動に尽力し、健康経営に関する医療系書籍の編集にも関わっている。医師と患者のコミュニケーションを医療関係者、患者双方の視点から見つめ直すことを課題とし、とくに働く女性のライフスタイルについて提案・貢献することを目指している。

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