アルプスの少女「ハイジ」に見た資本主義の超過酷 ハイジ、ペーター、クララ…笑顔の裏の光と影
スイスは観光地として売り出し中だった
そもそもなぜ舞台がスイス・アルプスだったのか。
もちろん作者のシュピーリがスイスの作家だったからですが、それはそれとして当時のスイスは、いろんな意味でおもしろい、注目すべき土地でした。
ひとつは当時のアルプスが観光地として絶賛売り出し中だったことです。
長い間、アルプスは不気味で不毛な山岳地帯のイメージでした。それが一転したのは18世紀。登山家のアルプス登攀を機にスイスは観光地として注目されるようになり、鉄道の発達とともに19世紀末にはスイス旅行がブームになります。『ハイジ』はつまり少女の成長譚であると同時に、観光ガイドの役割も果たしていた。鉄道の駅があるマイエンフェルトからアルムまでは徒歩で片道2時間。標高1100メートルの高地にあり、冬の厳しさを含め、必ずしも子どもの成育に適した環境とはいえません。それでもこの土地に魅了されたハイジともども、読者は憧れをかきたてられます。
山を見ても空を見ても歓喜の声をあげ、ミルクを飲めば〈こんなにおいしいミルク、飲んだことない〉。干し草の山を見れば〈あたし、ここで寝る。すてきなところね!〉。ヤギに会えば〈この子たち、うちの子なの、おじいさん? 2匹とも?〉と目を輝かせ、〈おまえも牧場にいきたいだろう?〉と祖父に尋ねられれば、うれしくて飛びはねる。ハイジはまるでスイス観光のキャンペーンガールのようです。
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