アルプスの少女「ハイジ」に見た資本主義の超過酷

ハイジ、ペーター、クララ…笑顔の裏の光と影

自然讃歌という印象とは裏腹に「資本主義で生きるということ」の過酷さを示した物語でもあります(写真:FamVeld/PIXTA)
ヨハンナ・シュピーリ『ハイジ』。日本では『アルプスの少女ハイジ』などの邦題でも親しまれている作品です。とりわけ1974年に制作されたテレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』(演出・高畑勲/画面構成・宮崎駿)は世界中で大ヒット。『ハイジ』といったら、いまは本よりアニメを思い出す人が多いかもしれません。
このアニメのイメージから、天真爛漫な少女ハイジがアルムの森と木々に囲まれながらのびのびと成長していく、自然讃歌の物語という印象を持っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、原作の『ハイジ』を読むと少し印象が変わります。5歳の少女ハイジが叔母(亡き母の妹)のデーテに手を引かれ、アルム村に到着するシーンから始まるこの物語は、過酷な資本主義社会を生き抜く登場人物たちの苦悩、近代の光と陰が交錯する様が描かれた、なかなか複雑な作品なのです。
懐かしい名作少女小説を現代の視点からあらためて読み直す新刊『挑発する少女小説』より一部抜粋、再構成してお届けします。
※作品からの引用は『完訳版ハイジ』全二巻(若松宣子訳、偕成社文庫、2014年)より

スイスは観光地として売り出し中だった

そもそもなぜ舞台がスイス・アルプスだったのか。

もちろん作者のシュピーリがスイスの作家だったからですが、それはそれとして当時のスイスは、いろんな意味でおもしろい、注目すべき土地でした。

ひとつは当時のアルプスが観光地として絶賛売り出し中だったことです。

長い間、アルプスは不気味で不毛な山岳地帯のイメージでした。それが一転したのは18世紀。登山家のアルプス登攀を機にスイスは観光地として注目されるようになり、鉄道の発達とともに19世紀末にはスイス旅行がブームになります。『ハイジ』はつまり少女の成長譚であると同時に、観光ガイドの役割も果たしていた。鉄道の駅があるマイエンフェルトからアルムまでは徒歩で片道2時間。標高1100メートルの高地にあり、冬の厳しさを含め、必ずしも子どもの成育に適した環境とはいえません。それでもこの土地に魅了されたハイジともども、読者は憧れをかきたてられます。

山を見ても空を見ても歓喜の声をあげ、ミルクを飲めば〈こんなにおいしいミルク、飲んだことない〉。干し草の山を見れば〈あたし、ここで寝る。すてきなところね!〉。ヤギに会えば〈この子たち、うちの子なの、おじいさん? 2匹とも?〉と目を輝かせ、〈おまえも牧場にいきたいだろう?〉と祖父に尋ねられれば、うれしくて飛びはねる。ハイジはまるでスイス観光のキャンペーンガールのようです。

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