「プロデューサー兼演出家」が40年続けた文化事業 「希望を捨てない悲観論者」の目配りと感覚
初めて明らかになった事実も少なくない評伝
劇作家、評論家として幅広く活躍した山崎正和が亡くなってから、まもなく1年になる。そのあいだ、山崎が編集に関わった雑誌の追悼特集である『別冊アステイオン それぞれの山崎正和』(CCCメディアハウス)、最後の時期に発表した文章をまとめた『哲学漫想』(中央公論新社)が刊行されている。これに続いて初めての評伝としてまとめられたのが本書である。
著者、片山修は、山崎のその後の評論活動の方向を予告したと言える著書、『おんりい・いえすたでい′60s』(1977年)の初出の連載にあたり聞き書きを担当して以来、45年近く交流をもってきた。思えば、70年代に山崎の伴走者であった開高健、粕谷一希、高坂正堯といった人々は、みな山崎よりも年長か同年代であり、すでに世を去っている。そのころからの山崎の活躍を、長いあいだ親しく目にしてきた書き手として、片山は唯一の存在だろう。
山崎の生涯をふりかえる本としては、評者も関わった当人へのインタビューをまとめた、御厨貴ほか編『舞台をまわす、舞台がまわる――山崎正和オーラルヒストリー』(中央公論新社)がすでにある。こちらの内容は、生涯の全般について述べる通常の自伝に近い。これに対して本書『山崎正和の遺言』は、独自の方針によってまとめられており、しかもそれは、山崎自身の「遺言」とも言えるメッセージに基づいている。
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