ドコモ、代理店ノルマを突然「激辛化」した魂胆 インセンティブの大幅カットでショップ削減か

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「インセンティブ」というと、あたかもドコモが代理店に任意で出すボーナスのように聞こえるが、実態はそうではない。

ドコモは代理店に対し、iPhone12などほとんどのスマホ端末を、ドコモが決めている定価と同額で卸している。言ってみれば原価率100%であり、代理店は純粋な端末販売で利益を出せない構造だ。

そうした条件下で、代理店の利益の柱になっているのがドコモからのインセンティブだ。ドコモは代理店が稼いだ収益を一度総取りしたうえで、自社が作ったルールに従って分配している。つまりインセンティブには、本来代理店が当然に得るべきお金が多分に含まれている。

上述してきた営業活動インセンティブのほかにもインセンティブは数種類あるが、その総額は代理店の経営を大きく左右する。代理店関係者は「インセンティブを大幅にカットすれば撤退せざるをえなくなる店が出てくる。ドコモが評価を厳しくしたのは、ある程度の数のショップを閉店に追い込んでコストを減らす狙いだろう」と憤る。

フランチャイズ問題に詳しい中村昌典弁護士は、ドコモのこうした施策について、「代理店にとってインセンティブが大きな利益の源泉であることを踏まえると、評価基準の勝手な変更は一方的な対価の切り下げであり、独禁法違反の優越的地位の濫用そのものと言える」と指摘する。

ドコモ「適正な水準となるよう設計」

携帯電話は老若男女が使うインフラだけに、ドコモが厳しい評価設定を代理店に押し付けることによる現場の無理販売の誘発と、それによる消費者への不利益も懸念される。例えば「マイグレーション」の評価を厳しくすることは、ガラケー利用で十分な高齢顧客に対し、ショップが無理にスマホへの機種変更を勧めるなどの問題につながりそうだ。

ドコモ広報部の福岡真美担当部長は一連の問題に関する東洋経済の質問に対し、「一部の販売成果に応じたインセンティブについては、その水準を市場環境の変化に合わせる必要があることから、全体的な販売進捗や各店舗の平均達成率を踏まえて適正な水準となるよう設計し、評価月が始まる前に代理店向けに説明を行っている」と説明する。

だが、複数の代理店関係者は「今回の基準変更については、事前に何の説明もなかった」と異口同音に証言する。内容から見ても、ドコモが代理店の納得を得て評価水準を変更したとは考えにくい。

公取委は実態調査報告書の公表から4日後の6月14日、ドコモを含むキャリア3社に対し、代理店との取引を自主的に改善して報告するように求める行政指導を行った。だが、彼らに自浄作用があるのかは甚だ疑問だ。

東洋経済プラスの連載「携帯販売の大問題」では、以下の記事を無料でお読みいただけます。

au、表向き値下げでも「面従腹背」の衝撃実態 

「わざとスマホ壊して!」ドコモ代理店、驚愕営業の実態 

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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