やる気がない人とある人が分かれる生物学的理由 目の前の仕事が大事に思えなくてもしょうがない

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それでも、やる気を出したいときのヒントが出版業界にあります。

売れっ子の作家センセイが雑誌に連載しているときに、締め切りに間に合うよう原稿執筆のやる気を出させる方法です。センセイを旅館に缶詰めにして、編集者が部屋の前に陣取ってせかすのです。「センセイ、いい加減に原稿書いてもらわないと私、クビになっちゃうんです」とプレッシャーをかけます。すると、「十分に売れたので印税はもういいや」と考えているセンセイであっても、「あいつのためなら」と奮起するものです。

人間は人のために働く動物なので、こうしたやる気の出し方があります。企業のプロジェクトが仲のいいチームで進行していたならば、仲間のためにと思うと、不思議とやる気が出るのです。

社会性がうまく刺激される環境を探そう

人類が文明社会を築いて地球を制覇できた主要因として「社会性」が挙げられます。動物の中で唯一人間だけが、他者を率先して助けようとします。そしてまた、「周りの人は自分を助けてくれる」と生まれながらに思うのです。長かった狩猟採集時代の協力生活は、この「社会性」を進化させました。

さらに社会性は、コミュニケーションを増大させ、言語の形成に強く寄与しました。なぜなら、周りの人が有益な情報を教えてくれると思えるから、みんながコミュニケーションをとろうとするためです。みんながたがいにライバル同士であれば、有益な情報は隠すことが多くなるので、コミュニケーションは増えず、言語は登場しなかったでしょう。

私たちの心は、社会性に強く動機づけられます。「他者のために」と思うとやる気が出るし、上司から感謝されれば会社への愛着がわきます。人と一緒ならば、つらい勉強やダイエットも続けていけるでしょう。自分ひとりでは運動が続けられないので、わざわざ友達を誘ってジョギングしているという人も多いでしょう。

『生物学的に、しょうがない!』(サンマーク出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

生物学的にしょうがないことの一部は、自分の社会性をうまく刺激する環境を探し当てれば、改善が期待できます。友達がいれば協力を求めての環境作りもできますが、いなくとも環境を探せばよいのです。

たとえば、ジムに行くのがそれに該当します。ジムで運動がしやすいのは、みんなが運動しているので自分も運動が促されるという同調の現れです。また、そこに友達がいなくともインストラクターがいれば、運動させてくれます。

一方、社会性があるがゆえに人から悪影響を受ける問題もあります。ライバル意識で不要な物をたくさん買い込んだり、人から悪い遊びへと誘われたりもします。現代では、厚い友達関係を限定的に持っているよりも、薄い関係でも多様な選択肢を持っているほうが有利になっているのです。

自分に合った「社会性刺激環境」を多数確保しておけば、「しょうがないこと」をどうしても改善したいときに役立つでしょう。

石川 幹人 明治大学 教授

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いしかわ まさと / Masato Ishikawa

1959年東京生まれ。東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。同大学院物理情報工学専攻,企業の研究所や政府系シンクタンクをへて,1997年に明治大学に赴任。人工知能技術を遺伝子情報処理に応用する研究で博士(工学)を取得。専門は認知科学で,生物学と脳科学と心理学の学際領域研究を長年手がけている。主な著書に『人はなぜだまされるのか~進化心理学が解き明かす「心」の不思議』(講談社ブルーバックス),『だまされ上手が生き残る~入門! 進化心理学』(光文社新書),『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)がある。

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