180万円はどこへ消えた?「保育士給与」の不可解 明らかになった「地域ごと人件費」で見えること

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保育士の処遇改善を考えると、指標になるのは賃金の額だけではない。人員体制の手厚さも、働き方を大きく左右する。

保育園には、園児の年齢ごとに園児数に対する保育士の最低配置基準が定められており、0歳では子ども3人に保育士1人(「3対1」)、1~2歳は「6対1」、3歳は「20対1」、4~5歳は「30対1」となっているが、基準通りでは人手が足りない。

現場に余裕を持たせるため、認可保育園では1カ所当たり常勤2人に加えて非常勤2.3人の保育士を多く雇っているのが現状だ(内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」2019年度)。

都内では保育士不足が常態化

ただ、配置基準に沿った人件費が保育園に支払われることから、配置基準以上に保育士がいたとしても支払われる人件費総額は変わらない。冒頭のA保育園のように人件費を十分にかけ、現場のことを考え多く保育士を配置するとともに1人当たりの賃金水準が高い保育園もあるが、そうした保育園は決して多くないのが現状だ。利益を優先する保育園では配置基準ギリギリでしか保育士を雇わず、かつ1人当たりの賃金を低くすることで、最も利益を出そうとする傾向がある。

東京23区内で株式会社が運営するB認可保育園では保育士不足が常態化しており、保育士のCさん(40代)は、憤りを隠せない。

「これまで“保育士はどうせ低賃金だ”と割り切っていましたが、本当はそうでないと知って驚いています。保育士が多いことで1人当たりの賃金が低いならまだしも、私の職場では保育士の配置がギリギリ。だったら通知に近い年収がもらえるはずなのに、私の年収は約380万円です。差額の約180万円はどこに消えているのでしょうか。会社が儲けるために保育園があるわけではない」

B保育園では人員に余裕がないため、保育士自身や保育士の子どもの体調不良で急な欠勤があると、たちまち配置基準違反の少人数態勢になってしまうという。保育士歴20年のCさんでも「いくら保育士歴が長くても私1人で3歳児を20人も見切れません。けんかの仲裁に入っていると、保育室の向こう側でほかの園児が高いところに登ろうとする。いつケガしないかと冷や冷やしています」と話す。

保育士の体制は園児の安全に直結し、保護者にとっても見過ごすことはできない。都内の別の認可保育園に子どもを預ける母(30代)は、通知改定によって保育士の人件費額が明らかになり、驚きを隠せない。

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