180万円はどこへ消えた?「保育士給与」の不可解 明らかになった「地域ごと人件費」で見えること

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2021年度の人件費額(法定福利費や処遇改善費は含まない)は、全国平均で年394万円だが、全国平均だけを見ていては、実際の賃金との乖離具合がわからない。

改定された通知によれば、全国を8つに分けた地域区分ごとの公定価格(基本分)の人件費額は、最高額の特別区(東京23区)で年442万円、次いで高い横浜市や大阪市などの地域区分では年427万円が賃金分として運営費に含まれている(「令和3年度における私立保育所の運営に要する費用について」)。

ただ、あくまで通知の金額は保育単価である「公定価格」の基本的な部分であり、ほかにも一定の条件をもとにつく「加算」や国を挙げての処遇改善が行われている。

賃金の実績は?

2013年度から2021年度までの間に、国は保育士1人当たり月額平均で4万4000円、経験のある保育士は最高で月額8万4000円の賃金アップを図った。自治体も独自に処遇改善を行い、東京都は独自に月4万4000円の処遇改善をつけている。すると東京23区の保育士は、処遇改善費が最高額でつくと単純計算で年565万円の収入となる。

では、賃金の実績はどうか。内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」(2019年度調査)を見ると、東京23区の賃金の実績は、処遇改善費が入った金額でも平均で381万円でしかない。同じ東京23区の保育園が公費で受け取った金額と比べると、処遇改善の金額によるが131万円から184万円の差があることになる。

都内の場合、東京都が独自の処遇改善費を出すことと引き換えに個々の保育園の財務情報や支払い賃金の実績の提出を求めているため、各園の実態を把握することができる。それらの情報は都が運営するサイト「こぽる」で公開されている。

「こぽる」で大手の賃金の動向を見ると、行政から支払われる委託費が最も高いはずの東京23区でも、年間賃金が平均300万円台というケースが少なくない。

ある経営コンサルタントは「保育で儲けようとする事業者は、保育単価の高い都市部や補助金を多く出す自治体を狙って進出します。人件費を抑えれば、利幅が大きい」と話す。そこで筆者は、すべての地域区分について、国による処遇改善費がついた場合の賃金との差を計算すると、単価が高い地域ほど公費との差が大きいことがわかる。

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