「妻の出世で家庭崩壊」40代仮面イクメンの告白 理想の家庭を追い求めた夫婦の驚くべき数年後

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「でも、それがどうして、イクメンのふりをすることになってしまったのですか?」

「僕の男としての価値、父親としての存在を妻に認めてほしかった。妻は僕が仕事でパッとしないのはわかっていますから……せめて、イクメンを演じるというか、育児を楽しむ父親の仮面をかぶることで……」

だが、田中さんは実際に育児に積極的に関わり、妻の負担を軽減し、仕事に打ち込みやすい環境をつくってきたはずだ。なぜ、“仮面イクメン”を続けなければならないのか。

「妻のほうが子どもと接する時間は長いし、息子も懐いています。でも、それは僕のせいじゃない。会社が女性の仕事と育児の両立には理解があっても、男性が子育てのために仕事を早く切り上げたりすることにはまだまだ厳しいからなんです。でも、妻はそんなことはわかっちゃいない。僕には子育てへの関与を感謝するどころか、『もっと(子育てに)協力して』が口癖です。だから、そのー……今、はやりのイクメンを頑張っている、少なくとも努力している、と妻には受け止めてもらいたかったんです」

ここまで言い終えると、口をつけていなかったコップの水を一気に飲み干した。

夫婦の溝がなおいっそう深まり、やがて危機的な状況を迎えることになろうとは、そのとき、田中さん自身も思っていなかったのではないだろうか。

妻の出世で敗北感を感じた

女性活躍推進法が成立、一部施行された2015年、田中さんの妻は40歳で課長に昇進した。同期入社の男性から2、3年遅れはしたものの、子育てと両立させながら管理職ポストに就くことを諦めずに地道に努力を重ね、実績を上げてきたことが評価されての昇進だった。

「妻に負けた、という敗北感が、妻の課長昇進によって僕の中で決定的になったんです。妻のほうが僕よりも仕事の能力があるということには、10年以上前から気づいていたんですが、実際に出世を見せつけられてしまうと……。僕だって育児に関わらずに仕事に専念していたら、今よりはもっと仕事で評価されたんじゃないかと思うと悔しいですし、実際に出世街道を歩んでいたら子供の世話をする余裕なんてなかったわけですから。それに──、あっ、いや……」

田中さんは何か重要なことを打ち明けようとして、言葉をのみ込んだように見えた。苦渋の表情を浮かべたまま、どこを見るともなく見て視線が定まらない。

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