「妻の出世で家庭崩壊」40代仮面イクメンの告白 理想の家庭を追い求めた夫婦の驚くべき数年後

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「妻のせいで、家庭が心休まる場ではなくなってしまった。とくに(妻が)課長になってからはそうなんです。妻とは必要最低限のことしか話さないし、体の触れ合いなんてとっくの昔に終えています。中学に入学したばかりの息子とは結託しているようで、僕の悪口でもたたき込んでいるのか、息子は僕が話しかけても返事さえしないような状態で……。彼女にとって家庭は、息子の学校生活と進路のことだけ考えていれば、あとはいかに家事も含めて効率的に処理するかという、職場のようになっているんです」

夫婦の溝を埋める手立てはないのか、という問いに、こう語気を強めて即答する田中さんの表情からはむなしさのようなものが感じられた。

「ないですね。残念ながら、今はまったく考えられないです」

在宅勤務でたまった怒りが夫へのDVに

妻からのDVと、妻へのモラハラを打ち明けてくれた、本章冒頭の2020年末のインタビュー場面はこの2016年の取材の後、音信不通の期間を挟んで、続く。夫婦の間に深刻な出来事があり、実はイクメンでもよき夫でもないのだと告白し終えた田中さんは、ほんのつかの間、妻に精神的な苦痛を与えた重荷から解放されたかのようにため息まじりに深く息を吐いた。

妻からのDVは、2020年春、コロナ禍で最初の緊急事態宣言が出され、ほとんどの社員が在宅勤務となっていた時期に起こった。妻はこの前年の2019年に部次長に昇進、田中さんは2018年に課長になったばかりだった。突然、リビングの棚に立て掛けてあった家族写真や、テーブルの上の飲みかけの缶ビールなどを投げつけたり、冷蔵庫の中から持ち出した飲料水の入ったままのペットボトルで田中さんの腕や背中を殴ったりしたという。

投げられた物が後頭部にぶつかって出血し、5針縫うけがを負ったことまである。妻は、いったんは事の重大さに気づいて病院に付き添ったりしてくれるのだが、しばらくしてまた暴力を振るう、という繰り返しが1カ月近く続いたらしい。妻は自身の判断で仕事を続けながら精神科のクリニックを受診、半年以上過ぎた今も月に2回通い、精神安定剤などの投薬治療を受けているという。

「夫婦が顔を合わせる時間が格段に増え、妻はたまった私への怒りを暴力で訴えるしかなかったのではないか」と田中さんは考えている。

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