しかし、ハイパーインフレはインフレとは異なる。別と考えたほうが良い。なぜなら、インフレとはモノの値段が上がることだが、ハイパーインフレはマネーあるいは貨幣の値段が暴落することだからである。貨幣とは本来は価値ゼロのバブルそのものであるから、いったん「価値がない」と思われればすぐに紙くず、あるいは仮想通貨(暗号資産)なら「ビットくず」になってしまう。
第3のインフレ、正確にはハイパーインフレは、実は、経済学にとっては、むしろ普通のインフレよりはありがたいものである。なぜなら、もちろん経済社会に与えるダメージは深刻で、インフレのように「ほぼ無害」であるのとは大きく異なるわけだが、しかし、なぜ起こるのかについては、原因が解明されているからである。
それは、その貨幣の信用が失われるからである。その通貨を発行している中央銀行、あるいはそれを支えるその国家、その経済、それらいずれかの(あるいはすべての)信用が失われる(疑問を持たれる)ことによるものだからである。だから、信用を失わないようにすれば良い。そうすればハイパーインフレは起きない。普通は世の中にいないが、ハイパーインフレを起こしたければ、信用を意図的に失えばよい。現実は悲惨でも、学問的、論理的には明快だ。
そこへいくと、インフレはどうやったら起こせるのか、まだ解明されていない。日本銀行の異常な金融緩和は、その壮大なる実験だったのか、実験のふりをしたバブル創造政策だったのか、その真意は定かではない。だが、明らかなのは金融政策ではインフレは起こせない、ということが示されたことだ。
インフレはどうやったら起こる?
そう。われわれは、インフレはどうしたら起きるか、無知の世界にいる。それは経済学者もエコノミストも投資家たちも、人類すべてが、インフレがどうやったら起きるのか、知らずにいるのだ。
しかし、おそらく世界で1人だけといってもいいくらい、これについて詳しい経済学者がいる。それは、日本の渡辺努・東京大学経済学部教授だ。彼は、一連の研究でこれを解明しようと努めてきた。物価インデックスの会社まで作ってしまった。恐るべき偉大な先輩だが、彼(とその共同研究者)以外で、物価の秘密を素人として理解しているのは、後は、私だけかもしれない。
インフレはどうしたら起こるのか。物価はどうしたら上がるのか。その方法はただひとつ。値上げすることである。
製品・サービスの供給者が価格を上げること。これが物価を上げる方法であり、現実に物価が上がる唯一の理由である。
オークションと一緒である。株価と一緒である。高い値段をつけて売りに出し、それが実際に売れること。これ以外ない。この話は、また次回以降に行いたいが、日本でインフレがおきにくい理由は、日本企業が値上げを嫌うこと、そして、その背景には、値上げを極端に毛嫌いする日本の消費者がいることである。つまり、日本人がケチだからなのである。
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