さて、現在アメリカで起きているインフレは、前述の第1のインフレ(デマンドプル型)と第2のインフレ(コストプッシュ型)が同時に起きているものと考えられる。
一部で接触機会を減らすために、これまでの形で労働力が投入できないいっぽうで、需要は、これまでと違う形で吐き出され、それが一部に集中していることから生じている。これまでデリバリーなど割高で見向きもしなかった人々が、やむを得ず、そのスタイルを受け入れ、高い食費を受け入れている。
これが新しい現実となるか、それとも持続性がなく、もとのように普通に外食するようになるかは、今後明らかになるだろうが、いずれにせよ、インフレという問題ではない「新しい現実」という問題となる。
「金融引き締め」に転じる必要がある根本的な理由
一方、半導体不足は深刻であるが、これは別の要因、EV化もあいまって、新しい現実のいまさらのDX(世界的にはさらなるデジタル需要)などが需要を急増させているものである。しかし、これも、一部の製品によるものであり、物価全般の上昇、というインフレとは異なる。それだけでなく、半導体の生産量が工場建設や設備投資などにより増えてくれば、需給不均衡は解消するので、問題ではない。
となれば、インフレは、現象としてはおきているが、一時的な理由によるものは解消するので問題ではない。また、そもそも解決できない新しい現実もあり、それはインフレではなく、新しい社会問題であり、インフレという現象として捉えるべきではない、ということになる。
これらの理由から、アメリカ中央銀行は、インフレというデータによる数字を目の前にしても、金融緩和のスタンスを変えることはない、と主張している。また、投資家たちも、その説明を受け入れたほうが、都合がよいから、信じているふりをして、今後のリスクには目をつぶっている。
実際には、明らかな経済の過熱もあり、経済全体の需要を抑制するために、金融引き締めに転じる必要があることは必然と思われる。なぜなら、大規模な財政出動を行っており、これは明らかな需要増加を生み出しているからだ。
また、ワクチンの広まりにより、少なくともアメリカにおいては行動制限から解放され、陽気なアメリカ人たちは、いままでの鬱憤(日本の人々の愚痴とは次元が異なり、まさに1年半、外出を文字通り禁止されていたのだから)を晴らすかのように、お祭り騒ぎに近い消費行動をとると見込まれるからである。
さて、それでは第3のインフレとは何か。巷のエコノミストが大好きな、マネーの増加によるインフレである。貨幣数量説、マネタリズムという経済学の用語を振り回して、中央銀行がマネーを供給すれば、モノとマネーの比率が変わり、モノのマネーに対する相対価格は上昇する、そしてインフレになる、という主張である。
これは、なぜかインフレを起こしたい人たちが、とりわけ、日本経済の文脈で特に好んで使う主張である。だが世界的には、むしろ逆に、それがインフレを起こし、経済を壊滅させるという議論が主流である。ハイパーインフレーションである。
これは新興国、途上国では、毎年世界のどこかでは見られる現象であり、インフレを見かけなくなったのは、成熟国だけで、世界では、まだハイパーインフレ懸念のほうが普通である。為替レートが暴落し、一国の経済が成り立たなくなる。
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