日本が旧日本軍「失敗の本質」繰り返す悪弊の正体 部分最適求める永遠平時国家のままでは戦えない

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戸部:日本はアメリカと戦争しましたが、開戦前の国力を比較すると1対10以上で、とにかく雲泥の差でした。最近アメリカの研究者に伺った話では、日本の鉄鋼生産量はピッツバーグのそれよりも低かったそうです。もちろん、国力に大差があることは軍部も知っていました。

戸部良一(とべ・りょういち)/防衛大学校名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。1948年宮城県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。防衛大学校教授、国際日本文化研究センター教授、帝京大学教授などを歴任。著書に『ピース・フィーラー』(論創社、吉田茂賞)、『自壊の病理』(日本経済新聞出版、アジア太平洋賞特別賞)などがある(撮影:尾形文繁)

しかし、軍部は国力が戦力に転換するまでには時間がかかると考えていました。確かに、鉄鋼はあっても艦船や航空機や武器を生産するには時間がかかります。その間に負けない体制を構築し、我慢の戦いを続けていれば、相手が戦意を消失するだろうというのが、開戦時の日本のプランだったのです。

ところが、アメリカが国力を戦力に転換するスピードは物凄く早かったのです。むしろ、日本のほうが遅いくらいでした。

船橋:それが今も続いているということですかね。日本の技術革新は、単発、単線、モノ、短期であって、エコ・システム、プラットフォーム、コト(概念)、長期へのウイングが広がらない。だから持続しません。

しかも、地経学の時代に入り、経済相互依存が武器化し、今回も、ワクチン・ナショナリズムが至る所で噴出しています。日本はまさにかつてズビグネフ・ブレジンスキーが形容した『ひ弱な花 日本』になりつつある。ここでも、アメリカとの彼我の差を改めて痛感するわけですが、日本のどこに課題があるとお考えですか。

考えないことで成功してしまった

戸部:1つには、戦後の日本が安全保障とその他の分野をあまりにも截然と区別してしまって、その関連性に目を瞑ってきてしまったので、そのツケが噴出しているということだと思います。最近になってようやく国家安全保障局に経済班ができたということで、今後は少し変わって行くのかもしれませんが、『失敗の本質』にことよせて言えば、これまでは、安全保障とその他のことを切り分けて、関連を考えないことでむしろ成功してきたのかもしれません。

官僚制の問題で、全体最適解ではなく、部分最適解を求めるというご指摘がありましたが、まさに、それぞれの分野で部分最適を追求していった結果、ものごとがうまく回ってきてしまったのではないでしょうか。役所もそうだったのかもしれません。これまでは。

船橋:戦後、自由で開かれた国際秩序を標榜しアメリカ主導で構築されたブレトンウッズ体制にしても、日米同盟にしてもそうですが、本来、日本自身が自分の問題として追求しなければならない国際秩序形成と安全保障政策構築を、いわばアメリカに“アウトソース”するような形ですませてきたきらいがあります。

この体制の下では、経済と安全保障を画然と分けて、それぞれの部分最適解を追求することもできました。しかし、中国の挑戦と米中の対立で自由で開かれた国際秩序が揺らぎ、しかも今回のパンデミックでそこに大きな亀裂が走っています。

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