「福島原発事故」10年後の今でも検証足りない訳 世界のどこにも起こりうる普遍的な挑戦

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2011年3月11日の福島第一原発1号機のSBO(全交流電源喪失)から始まった事故と危機。危機に投げ込まれ、危機に取り組み、危機に克とうと試みた人々の戦いの記録とは?(写真は2016年2月、Toru Hanai/Pool via Bloomberg)
「日本は東日本を失うかもしれない」――戦後最大の危機から10年。日本の危機対応能力が抱える構造的問題とは何か。調査委員会理事長を務めた船橋洋一氏が、後年明らかになった新史料から、福島第一原発の「メルトダウン」を分刻みで描いた『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(上下巻)から一部を抜粋、再構成してお届けする。

フクシマはなお、終わっていない。

東京電力福島第一原子力発電所は、現時点でも、「原子力緊急事態宣言」が解除されていない。

福島県では事故発生から24時間以内の4回に及ぶ避難指示によって避難した住民(2012年5月のピーク時で16万4865人)のうち4万974人(県内1360人、県外33914人=2020年2月現在)がいまだに自宅に戻れない状態が続いている。

事故に起因する直接の被ばくによる死者はいなかったが、避難やその後のストレスによる災害関連死は3739人に上っている。

2011年3月14日から12月18日までの9カ月間、現場で事故処理に取り組んだ東京電力の約2万人の社員(緊急作業従事者)のうち累積被ばく線量が100ミリシーベルトを超えたものは174人に上った。中には被ばく線量が678ミリシーベルトに達した運転員もいた。政府は10月、彼らに対して長期にわたる健康管理に取り組むとの「指針」に基づき、甲状腺の検査やがん検診(胃、肺、大腸)を実施しているが、それでも人々はがんのリスクの高まりへの不安を抱えている。

プラントでは原子炉付近の放射線量が依然高く、原子炉内部の確認ができない状態にある。原子炉の炉心が溶解した結果生じた放射線量の高い「デブリ」のほとんどが原子炉格納容器底部にあると推測されている。その取り出しの技術と計画はなお確定していない。

福島第一原発では現在も一日約140トンの処理済み汚染水が発生している。このままでは保管用のタンクが2022年夏ごろには満杯になると予測されている。菅義偉政権は2020年10月、処理水を海洋に放出する方針を固めたが、海洋放出案に反対する漁業団体の全国組織「全国漁業協同組合連合会(全漁連)」と最終調整しなければならない。

事故前、日本には54基の原発が動いていたが、福島第一(6基)、第二(4基)をはじめ24基が廃炉となった。2020年9月末現在、再稼働が認められたのは申請のあった27基のうち9基にすぎない。

経済産業省の東京電力改革・1F問題委員会は2016年に公表した「東電改革提言(案)」のなかで、事故の損害額を22兆円と算出した。民間シンクタンクの日本経済研究センターは2019年、事故処理費用は40年間で最大80兆円まで膨らむとの試算を公表した。

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