第2回:総力戦できず楽観的な日本がコロナ大迷走の必然(6月2日配信)
第3回:コロナとフクシマに映る政治家と専門家のあり方(6月3日配信)
タコツボと化した巨大官庁
船橋 洋一(以下、船橋):前回はリーダーシップ論について伺いましたが、今回は最終回ということで、官僚制の問題から中央と地方の関係の課題、さらには日本の問題、課題というところに踏み込んでいきたいと思います。
リーダーシップ論の中では、指導者と専門家の関係のあり方についても伺いましたが、戦前は専門家集団である軍部と政治指導者の対話や協力が、軍人の政治的成熟度という問題も含めてうまくいっていなかった、それが悲劇でした。今回のパンデミックでは、アドバイザーは感染症を専門とする科学者ということになりますが、官僚制の課題としては、感染症の危機管理を担当する厚生労働省です。
厚労省の予算は他の省庁と比べて突出して大きいが、人員は行革で削られてきています。ワクチン予防接種室は危機勃発の時、わずか10名ほどでした。組織ガバナンスがうまくいっていないことは、近年の政治スキャンダルの多くが厚労省がらみであることからもうかがえます。
国会でいつも叩かれる役回りなので、職員はどうしても守りの姿勢に傾き、攻めの行政ができない。規制官庁の殻に閉じこもり、時代の要請に応える前向きの産業政策を進めることができないんですね。
モンスターと化した厚労省が抱える最大の問題は、ひとことで言うと、それぞれの部署がタコツボとなってしまっていることです。橋本内閣の行政改革で旧厚生省と旧労働省を統合した役所ですから、厚生省系と労働省系があり、旧厚生省系では、年金・介護などを扱う“中枢”と感染症を扱う“傍流”、事務官系と医務技官系、さらに医系と薬剤系もあって非常に複雑です。たくさんの“村”があるのです。どうしても、全体の最適解ではなく司司の縄張りを守るための部分最適解を追求する体質となってしまっています。
それは、戦前の軍部の陸軍対海軍の関係においても指摘されていることで、軍人も専門家集団でありながら官僚的体質を持っていたわけですが、この辺りは、戦後、変化しているとみるべきなのか、それとも変わっていないところなのか、どうなのでしょう。
戸部 良一(以下、戸部):結果的に見ると、あまり変わってないということなのだと思います。ただ、橋本行革を見てもわかるとおり、いろいろな意味で、制度を変えようという発想はあります。必要以上に変えているという印象もなくはありませんが、とにかく組織や制度は変えようとしてきたけれど、それに人の発想がついていけず、行動が変わらない、ということではないかと思います。
それがなぜなのかを追求していくと、“日本的な文化”に逃げてしまいかねないといったところがありますね。
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