「フォートナイトとの闘い」でアップル譲歩の理由 圧倒的強者に立ち向かう「ナラティブ」の力

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1984年のアップルのCMが成功を収めたのは、CM=広告作品としてのクオリティーもさることながら、そこにナラティブ=物語的な構造があったからなのだ。

IBMによる市場の独占。独占で利を得るものと、それによる不利益を被るもの。独占を続けたい意思と、解放を求める意思。独裁者vs.救世主の図式。2020年に続編が放映され人気を得たドラマ『半沢直樹』のように、そこには人を惹きつける物語性がある。これがナラティブの本質なのだ。
そして、ナラティブの特徴のひとつは、「終わりのない物語」だということ。起承転結があるストーリーとは違って、物語的な構造であるナラティブに終わりはない。常に現在進行形なのである。物語は、一気に2020年に飛ぶことになる。

アップルとグーグルを独占禁止法違反で提訴

2020年6月。事の発端になったのは、1984年には存在しなかったある企業が、アップルに送ったメールだった。その企業こそがエピックだ。フォートナイトは、いわゆる仮想空間でバトルをしたり、独自の世界を創作したりするマルチプレイゲームである。3億5000万以上の登録ユーザーを抱え、欧米では社会現象にすらなっている「お化けゲーム」だ。

今回のコロナ禍でも、リアルイベントが次々に自粛される中、2020年4月に人気ラッパーであるトラヴィス・スコットのバーチャルライブを開催。なんと前代未聞の1230万人以上を集客した。日本でも、8月に米津玄師が同じくバーチャルライブを行い、話題となった。

話を6月に戻そう。エピックがアップルに送ったメールは、「フォートナイトだけ特別にストアを通さないで課金できるようにしてほしい」という要求だった。これをアップルは即座に拒否。エピックはアップル批判を開始し、フォートナイト内でユーザーへの直接課金制度を強行実施した。

これに怒り心頭のアップルは、 「利用ガイドライン違反」を理由に「App Store」からフォートナイトを削除。グーグルもこれに続き、同ゲームは「Google Play」からも削除された。つまり、新規ダウンロードがいっさいできなくなったわけだ。

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