「フォートナイトとの闘い」でアップル譲歩の理由 圧倒的強者に立ち向かう「ナラティブ」の力

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無機質な空間。そこを行進する、灰色の服に身を包んだ大勢の無表情な男たち。やがて彼らは巨大なスクリーンのある部屋に到着し、規律正しく着席する。スクリーンに映し出される、眼鏡の男性 「ビッグ・ブラザー」の演説を聞く彼らの表情には、何の意思も感情も読み取れない。鳴り響くビッグ・ブラザーの演説は、独裁色を増していく。

そこに、追っ手を振りほどきながら1人の若い女性が駆け込んでくる。灰色の男たちとは対照的に、女性が身に着けているのは白いタンクトップに鮮やかなオレンジのショートパンツだ。その手には、巨大なハンマーがしっかりと抱えられている。やおら、彼女は、スクリーンに向かってハンマーを投げつける。

次の瞬間、ビッグ・ブラザーが映し出されたスクリーンは派手に破壊され、灰色の男たちは驚愕し、何かから覚醒したような表情を見せる。そのシーンを背景に、メッセージが流れる。

「1月24日、アップルコンピューターはマッキントッシュを発表する。そしてあなたは、1984年が小説『1984』のようにはならないことを知るのです」

1984年、アップルが「マッキントッシュ」の発売時に、全米中が注目する「スーパーボウル」で流した伝説的なCM、「1984」だ。このCMのベースになったのは、イギリスの作家ジョージ・オーウェルのSF小説『1984』。独裁者「ビッグ・ブラザー」が支配する監視社会を舞台にしたものだ。

ナラティブは「終わりのない物語」

言うまでもなく、ビッグ・ブラザーは当時のコンピューター業界を独占していたIBMを象徴し、革命をもたらすハンマーの女性はアップルを象徴する。灰色の聴衆は、わかりにくいインターフェース技術のしがらみから「解放」される、世界中のPCユーザーだ。このCMは絶賛され伝説となり、その後のアップルの快進撃の大きなきっかけとなった。

さて、実はここに「ナラティブ」の原点がある。ナラティブとは、「物語的な共創構造」である。何らかのストーリー性をはらんだ構造の中で、企業活動、広告やマーケティングはもちろん、商品開発や人材採用に至るまでが行われる。物語的な構造には、消費者やユーザーはもちろん、従業員や取引先や株主などのあらゆるステークホルダー(利害関係者)が巻き込まれる。物語の「聴衆」としてではない。その「当事者」として、である。

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