「成長するアジア」と日本はどう向き合うべきか 前アジア開発銀行総裁の中尾武彦氏に訊く

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何が言いたいかというと、いま、おっしゃったように、独立とか歴史ということについて、どの国もそれぞれ思いがあるのです。それは西洋に対してであったり、日本に対してであったり、同時に中国に対してであったり。インドネシアとマレーシアの間にだってあります。かつて分離したマレーシアとシンガポールの間にも。完全な解決ができない場合は多いので、いかにマネージしていくかがポイントになります。

ですから、加盟国間のそういうものをうまくマネージしてきたASEANというのはすごいと私は思っています。もともとはベトナム戦争中に共産主義勢力の浸透を防ぐため、そして各国間の摩擦などを緩和するために1967年に創設されましたが、その後、貿易や投資の自由化、さまざまな標準の調和など経済面が重要になっていきました。

1990年代にはベトナムほか4カ国(CLMV)もメンバーに加え、自由主義的で市場志向の政策を促進した役割は非常に大きかった。ASEAN+3やASEAN+6の枠組みも、ASEANがあってのことでした。貿易自由化とか国内基準の自由化が遅れているとか、そういうところでASEANを批判している人たちもいますが、成果、貢献のほうがはるかに大きい。もっとも、今のミャンマーには、内政不干渉の原則から離れてでも毅然と対応してほしいと思います。

アジアと向き合ううえでの3つのポイント

(1)ナショナリズムのマネジメント

宮城:ここまで日本を含めて、アジアを考える際の重要なポイントをいくつもお示しくださったと思いますが、これからのアジア、そしてアジアと向き合う日本の課題を見えやすくするために、たとえば3つに絞って挙げていただくと、どのようになるでしょうか。

中尾:3つですか。私にとっても考えを整理するうえで、ありがたい質問ですね。まず、これまで話してきたように、ナショナリズムをどうマネージするかというのは非常に重要です。

過去の歴史などからくる関係国の間のナショナリズムを完全に解決することはできるか。そんなことを言い始めたらベトナム戦争もあるし、日本と中国、韓国との関係にしても、ある時期まで国交も回復されていなかった。そんな状態から条約で国交を結んで、なんとかいい方向に持っていく努力を積み重ねてきた。つまりマネージしてきたわけです。それを維持していく努力というのが第1ですね。

宮城:日本以外のアジアの国々は、欧米や日本といった列強に圧迫されてきた歴史がある一方で、近年の経済のグローバル化のなかで力をつけてきています。その気持ちを日本は理解しながらやっていかないといけない。そこはとても難しいところでもありますよね。

(2)経済ネットワークの構築

中尾:そうです。そこで第2は、経済面で各国が持っている比較競争力を生かしながらともに発展していくことです。貿易というのは、経済理論の初歩ですが、全部が負けということはありえない。どの分野が強くて、付加価値を高めることができるか。その意味では日本にはいいものがたくさんあります。明治以降、日本がこれだけ発展してきたのは、民間主導、市場主導で、ビジネスや技術に携わる人たち、起業家たちが奮闘してきたからです。

確かにいまはアメリカの巨大プラットフォーム企業や韓国のサムソン、それに急成長を遂げている中国の前で、日本の力が弱く見えている。だけれども冷静に見れば、日本には多くの技術シーズを持つ大企業、それに独自の技術を持っている中堅企業、伝統ある老舗など、強いもの、魅力的なものがあり、それをさらにどう生かすかです。ヨーロッパでもドイツやスウェーデンは強さを維持している。日本の中のいいものを、伸び盛りの近隣アジアの市場に向けてどう伸ばしていくのか、マネタイズ(収益化)していくのか。そこがカギです。

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