「アマゾンを50年先取り」していた宝塚経営の実態 100年続く宝塚歌劇団のすごいビジネスモデル
経験価値、顧客との価値共創、カスタマイズ、サイクル化……カスタマーエクスペリエンス戦略に求められるキーコンセプトを、アマゾンよりはるか前、今から50年前にすでに日本で実践していた企業があったことを気づかせてくれるのが、本稿で取り上げる『宝塚歌劇団の経営学』だ。
宝塚歌劇団のビジネスモデルとは?
宝塚歌劇団はファンの大多数が女性であり、男性は近寄りにくいイメージがある。しかし、元宝塚総支配人で、今は経営学者の職にある著者が解き明かすそのビジネスモデルを知れば、「目指せ!宝塚歌劇団!」の意識を持つことになるだろう。
本書で示されるビジネスモデルは以下のとおりだ。
宝塚歌劇団の差別化要因は、「女性が男性を演じる」つまり「男役」にある。それは「虚構」の世界だ。「この世に存在しないもの」であるから正解や定義は存在しない。そのため、男役の存在について、顧客は自分なりに定義することで、1人ひとりが異なった価値を享受できる。Aという男役がいれば、「私だけのA」のように、自分で価値をカスタマイズできるわけだ。
では、その価値とはどのようなものか。
顧客は男役としての「色気」や「たたずまい」を重視する。入団したてのころは当然未熟だ。「男役10年」といわれ、場数を踏んで身につけ、トップスターへと成長していく。顧客はお気に入りの男役の黎明期から成長を見守り続け、「伴走」する。歌唱力やダンス力といった商品価値より、伴走という経験価値を求めるのだ。
この伴走のプロセスにおいて、その都度、公演のチケットを購入し、関連グッズをコレクション化する。
一方、男役のほうも、ファンである顧客の伴走という支援を得ながら成長していく。ここに、顧客との価値共創の世界が生まれる。
ただ、伴走する対象の男役がトップスターになれなかったら、顧客の投資は効用として顕在化されず、サンクコスト(埋没費用)化してしまう。顧客は失望し、ほかのエンターテインメントへとブランドスイッチするかもしれない。
そこで、歌劇団側は、大半の顧客が目をつけた男役スター候補生については、「3番手→2番手→トップスター」へと番狂わせなく昇級させる「スターシステム」を顧客に保証する。この信頼関係により、顧客は投資がサンクコスト化することがなく、歌劇団側も顧客のブランドスイッチを回避できる。
やがて入団から十数年経つと、トップスターも退団の時期を迎える。それは男役としての「完成」を意味する。男役の成長に黎明期から顧客が伴走を続け、一緒にゴールのテープを切る醍醐味。それが宝塚歌劇団の「世界観」だ。男役=虚構であるため、顧客1人ひとりの経験価値はそれぞれカスタマイズされるが、同時に顧客同士はこの世界観を共有する。ここにファンクラブが組織される。公演チケットはファンクラブを通じて流通する。だから、歌劇団側は販売コストがかからない。
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