「アマゾンを50年先取り」していた宝塚経営の実態 100年続く宝塚歌劇団のすごいビジネスモデル

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顧客はファンクラブのコミュニティーに属しながら、「私だけのA」の成長に伴走する。日本を代表する哲学者、西田幾多郎が「絶対矛盾的自己同一」と呼んだ、「私」と「われわれ」のバランスのとれた、日本人の最も好む「一則多・多即一」の関係性をここに見いだすことができるだろう。

そして、男役が退団すると、顧客はまた新人を見つけ、伴走を始める。サイクル化だ。次のスター候補生を探すのにサーチコストはさほどかからない。また、サイクル化すれば、顧客離れは起きない。歌劇団側は、新規顧客の獲得には既存顧客の5倍のコストがかかるという「1:5の法則」から逃れられる。

価値共創モデルへの進化

このように、顧客はサーチコストもサンクコストもかからず、中長期に伴走のプロセスで価値共創を続け、経験価値を享受する。歌劇団側はスターシステムを保証して顧客との信頼関係を維持することで、チケットの販促コストも、新規顧客の開発コストも負わず、中長期的な収益と高い利益率を確保する。これが宝塚歌劇団のカスタマーエクスペリエンス重視のビジネスモデルだ。

宝塚歌劇団は、経営母体である阪急電鉄の創業者として知られる小林一三によって約100年前に創設された。当初の目的は、鉄道事業への「旅客誘致」にあった。小林一三は鉄道沿線での都市開発、流通事業、観光事業などを総合的に進め相乗効果を上げる私鉄経営モデルを作り上げた事業家。渋沢栄一らが着手した田園都市開発の実質的な経営も任されるなど都市計画家でもあった。

そして、文化創造者でもあった小林一三が発案した男役という虚構の世界は、1970年代、漫画『ベルサイユのばら』、通称「ベルばら」を原作とした公演の大ヒットを契機に、顧客との価値共創モデルへと進化したのだった。

そのビジネスモデルをひもといた本書を通読して、筆者が最も印象に残ったのが「伴走」と「世界観」という概念だ。企業やブランドが発信する世界観に共鳴し、その世界観がもたらす経験価値に共感した顧客が購買行動をサイクル化し、企業やブランドと伴走する。

その例も本書では紹介される。日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」だ。飲用後のペットボトルを手で絞ってつぶす光景のテレビCMが印象的だった。顧客は水の品質といった物質的価値より、容器の廃棄のプロセスにおいて、ペットボトルのリサイクルによる地球環境保護という世界観に共鳴し、経験価値を見いだす。自らも実践することで価値を共創する。そして、購入をサイクル化し、商品と伴走する。カスタマーエクスペリエンス志向の商品といえよう。

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